学府について

バンドやりたい
源河 亨 社会多様性共存コース
比較社会文化研究院 - 文化空間部門 - 文化表象講座

 2021年2月より比較社会文化研究院の講師に着任しました、源河亨(げんか・とおる)です。あまり見慣れない名前で「河原」とか「げんが」とか「享」とか間違えられやすいので、何かしらご迷惑をおかけするかもしれません。

 専門は哲学と美学です。美学は「芸術やセンスを対象とする哲学」なので、要するに哲学です。知覚や感情といった心に関する哲学的問題を扱いつつ、同時に、それを応用して美的判断や音楽経験を研究しています。「哲学」というと、昔の有名な哲学者の見解を紹介したり解釈したりするというイメージがあると思うのですが、恥ずかしながら、私は昔の哲学についてはあまり詳しくありません。それよりも、現代の心理学や脳科学といったいわゆる「認知科学」を利用した心の研究を行なっています。

 ひょっとすると「哲学って科学と関係ないんじゃないの?」と思った方もいるかもしれません。ですが、もともと「哲学(フィロソフィア)」は「知恵(ソフィア)」を「愛する(フィレイン)」ことで、知識の探究一般が哲学に該当していました。科学と哲学が明確に分かれるのは17~18世紀の科学革命あたりからですが、分かれたとはいえ、哲学でも科学の知見が利用されます。とくに私が研究している「心の哲学」と呼ばれる領域は、認知科学を知らなければまったく踏み込めないもの、「理論心理学」とほぼ同じものになっています。

 また冒頭で書いたように、こうした心の哲学を利用して美学の研究も行なっています。研究テーマのひとつは、美的判断の客観性(かっこいい/美しいに客観性はあるか?主観的な好みにすぎないのか)です。絵でも音楽でも風景でも何でもいいのですが、それを美しいとかかっこいいとか判断する際には、対象を知覚し、それについてあれこれ考え、過去に見てきたものと比較し、感動したり落胆したりする、とった心の働きが生まれています。そして、こうした心の働きは、心の哲学で研究されているものです。そうであるなら、心の哲学を使うことで美学の問題に取り組むことができると考えられるでしょう。さらに、先ほど述べた通り現代の心の哲学は認知科学を踏まえたものなので、それを美学に応用すれば、美や芸術といった一見すると科学的に扱えそうにないものの研究を科学に接続させることができると考えられるでしょう。

 美学で他に研究しているのは音楽と感情です。音楽はどのようにして聴き手の心を動かすのか、どうすれば音楽で気持ちを伝えられるのか、それぞれの地域や文化で音楽はどのように使われているのか、といった問題を扱っています。この問題に取り組む上でも、聴覚や感情に関する認知科学を参照していますし、また、現状まだ詳しく調べられていませんが、文化差に関しては文化人類学も参照する必要があると思っています。

 あと音楽といえば、大学生の頃からずっとバンドをやっていました。ジャンルは、「ラーガ・ロック」と呼ばれるものです。1960年代後半からイギリスで流行った、インド古典音楽を取り入れたサイケデリック・ロックです。ビートルズが中期にインド音楽にハマって、ジョージ・ハリスンがラヴィ・シャンカールに弟子入りしたりしていましたが、あのあたりの音楽です。私は、ギターなのにシタールみたいな音が出る「エレキシタール」という変な楽器を使っていました。

 2015年の年末に博士論文を大学事務に提出した際に、指導教員の先生から「哲学にかまけてバンドをやめないでください」と言われたのですが、コロナ禍でライブができなくなり、そのまま私が福岡に引っ越して(また、別のメンバーである自衛官は静岡駐屯地に異動になって)、地理的な方向性の違いからバンドが解散になってしまいました。福岡でも何かしら音楽活動をしたいと思っています。

*写真は渋谷Club Asia(2016年)真ん中が私です。このときのギターはギブソンのSGですが、エフェクターでシタールっぽい音を出していました。

プロフィール

担当科目:比較思想論, Comparative Studies of Thought and Ideas I~VIII など