地球社会統合科学府は2014年に設立され、今年設立十年目を迎えました。その前身は1994年に設立された比較社会文化研究科に遡ります。比較社会文化研究科の設立から数えると三十年目になります。
地球社会統合科学府は「地球社会的視野に立った統合的学際性」を教育の理念に掲げています。すなわち、一つの専門分野に閉じこもるのではなく、文系・理系の枠を超えた統合的な学際性に立脚して様々な研究課題を究明するような人材を養成することを教育の目標として掲げています。この目標を達成するための仕組みとして、修士課程では6つのコースを設定し、その中からメイン・サブのコースを選択する仕組みになっています。図をご覧いただくと、右側に6つのコースが、そして中央には学府で取り組んでいる研究テーマのキーワードの例が並んでいます。上から惑星地球そのものを対象とするテーマ、その地球で暮らす生物に関するテーマ、そしてその生物の中でも人間に注目して、人間の社会・文化の様々な側面に関するテーマが掲げられており、この図はそれらの研究テーマが緩やかにつながっていることを示しています。さらに左側には各コースの研究対象が示されていますが、地球そのものから、世界、国、都市、コミュニティー、家族、と様々な階層の研究対象が並んでいます。この図は学府設立時に使われていたものを基にイラストをリニューアルしたものですが、多種多様な専門の教員・学生の集まりである地球社会統合科学府の一体感を良く表わしていると思います。
この他にも目標達成のためのさらなる仕組みとして、特に修士課程ではコースワークを重視し、基礎から応用への積み上げを意識した多彩な授業科目をそろえ、諸課題に学際的にアプローチできる能力・スキルを身につけられるカリキュラムを提供してきました。2020年度からは、本学府の看板授業である「地球社会統合科学」を大学院版のPBL(Problem-Based Learning)科目に組み換えました。専門分野の異なる学生がグループを作って協働して課題に取り組み、統合学際的アプローチを実践的に学ぶ授業として高い評価を得ています。
もちろん、本学府でも修士・博士の学位論文の執筆は学習・研究の一つの到達点を示すものとして重要です。ただここでも、個々の学生が設定する研究課題には、他のディシプリン優先型の大学院には見られない広がりとユニークさ、分野横断型のテーマが散見されます。学府を構成する教員も多様な学問分野を専門とし、学際的な研究指導を実施します。
なお、地球社会統合科学府は、発足と同時に二つの大きな教育研究事業を合わせて展開してきました。「統合的学際教育を基盤とする高度グローバル人材養成プロジェクト」と「フューチャーアジア創生を先導する統合学際型リーダープログラム」です。いずれも、事業としては終了しましたが、そこで繰り広げられた数々の国際シンポジウム、ワークショップ、国内外でのフィールド調査実習等は本学府の学生を有為な人材に育成するうえで大きな力となりました。
そしてこれらの事業の成功を背景に、2021年に「未来共創リーダー育成プログラム」がスタートしました。九州大学の複数の学府が協力して設置した文理横断の副専攻型プログラムで、地球社会統合科学府が基幹学府を務めています。本学府の学生は、このプログラムを副専攻として選択することで、より学際的、実践的に研究活動の世界を広げることができるでしょう。
以上のように、九州大学地球社会統合科学府は、他のディシプリン優先型の大学院には見られない広がりとユニークさを武器に、広く社会で活躍する研究者・高度専門職業人を育成する教育を展開しています。このホームページでこれらの活動をご覧になって興味をお持ちいただき、ご理解ご支援を賜りますようお願い申し上げます。
地球社会統合科学府長
大野 正夫