学府について

言いにくいことを言う、声をあげる
ハオ シャオヤン 地球社会統合科学府・社会的多様性共存コース
比較社会文化研究院 文化空間部門・文化表象講座

 小学生の頃、月に一回ほど、最寄りの映画館で映画鑑賞する学校行事があり、それは毎月の楽しみでした。後にその映画館は史跡として指定され、保護されることになりました。いつも通っていた北陵映画館は、実は戦後戦犯裁判の場所だったのです。

 その後時は流れて、大学院時代、私は奇しくもその場所で行われていた戦犯裁判についての研究を進め、その成果をイギリスの学術誌に論文として発表し、博士論文の一章に収録しました。論文全体では戦犯裁判・戦後補償裁判・市民法廷における戦時性暴力の取り扱いに焦点を当て、女性の声や苦しみがいかに無視され、周縁化されてきたかを分析しました。

 保守的な環境で育った私は、実のところ長い間ジェンダー問題に対して無関心でした。よく考えると、ジェンダーについて研究することを通して、自身の置かれた(家父長的な)環境を対象化できるようになっただけでなく、社会におけるマイノリティ問題に対しても、さらに耳を傾け、共感できるようになりました。現在はその延長線上、表象分析の手法を学びながら、戦時性暴力の被害者がどのように記録・表象されているのかについても共同研究を進めています。

 その後、名古屋大学ジェンダー・ダイバーシティセンターの特任助教に採用され、女性研究者の増員策や支援に関わる業務を担当しました。その中、トイレにナプキンというプロジェクトにも携わり、生理用品について興味を持つようになり、そのテーマについて研究しています。

 へえ〜それぞれかなり異なるプロジェクトですね。そう人から言われたり、あるいは自分自身でもよく考えることがあります。私は一体何について興味を持っているのでしょうか。戦時性暴力と生理用品以外にも、もう一つアイデアがあり、それを必ず研究しようと思っています。よくよく考えると、これらのプロジェクトには、大きな共通点があります。それは、いずれもタブー視されていること、言いにくいこと、または、声をあげにくい人たちの存在に関わるテーマということです。これは、2024年に出版され話題書となっている阿部幸大氏の『まったく新しいアカデミック・ライティングの教科書』という本の「研究と世界をつなぐ」ことの重要性についての指摘と重なります。私自身の研究と世界とのつながりは、非合理的なタブーを打ち破り、言いにくいことを言ったり、声をあげにくい人たちの声をあげることを通し、社会正義の実現を目指したいのです。

 もう一つの目標もあります、それは、研究という他者との関わりを通じ成長し、自分自身についてもさらに知りたいのです。他者の存在は、人間性の形成やPTSD被害者の回復において必要不可欠な存在だと指摘されますが、研究における他者との出会いもまた、私にとって重要な意味を持っています。研究で出会う他者には、二つの種類があります。まず一つは、資料に登場する人物や日常生活で関わりのない研究者同士です。資料に登場する人物については、その人生を追体験することで、自分自身の人生を広げられ、深められます。ほかの研究者については、その研究をレビューすることで、学術コミュニティに参入することを通して、新たな会話が生まれ、ある種の関わりが形成されます。もう一つは、日々関わる同僚・研究者同士・学生です。いずれも、こうした関わりを通して、今までの経験や感覚を見直し、自分自身に対する理解を深めたいのです。

 九大を卒業し、名大で勤務したのちに、再び九大に戻ることは、私にとってホームカミングのような経験です。これから、私と関わりを持っているすべての人々と共に、成長していきたいと思います。

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