九州大学に2024年7月に着任する前,別の大学の教員公募の面接を受けておりました.その場で私に投げかけられた質問が非常に印象的でした.まとめると次のようなものだったと記憶しています.
「あなたは修士から10年間ほどの研究歴になるが,まとまった社会学的な成果がないようにみえる.あなたはこの10年間何をしてきたのですか?」
多くの社会学者は自らの研究テーマを持ち,それを深く探求する研究スタイルを採用しています.その面接官の先生にとって,私の研究履歴はそのような王道から逸脱しており,端的に言えば「毛塚は社会学者ではない」という認識に至ったのではないか,と私は解釈しました.
面接官の先生がそう思うのも無理はありません.私の研究はテーマの観点で言えば多岐にわたっていたからです.修士では教育と社会階層,博士では恋愛結婚・見合い結婚の推移を研究し,その後は夫婦の親密性,性別役割分業,「草食化」の研究,男女別学とジェンダーバイアス,少子化と教育格差といった修士・博士から発展したトピックから,モンゴル遊牧民の格差と極端気候の関連,YouTube上のコメント分析,伝統芸能従事者の寿命に至るまで,しばしば異分野研究者とともに多様な研究を行っていました.このような幅のある研究履歴が「社会学」らしくは見えなかったのでしょう.
この質問に対し私は「私の研究群には2つの軸があります」と返答しました.「2つの軸とは,合理性と実証です」.
私は数理社会学・計量社会学を専門としています.数理社会学は数理モデルを用いて,計量社会学は社会調査データと統計分析を用いて,社会現象のメカニズムを解明します.また,最近では計算社会科学と呼ばれるビッグデータやオンライン上のデジタルデータを用いた社会科学的研究領域にも片足を踏み込み始めました.
いずれにせよ,合理性(数理社会学)と実証(計量社会学・計算社会科学)が私の研究の柱になります.これらはある意味で手法に軸を置いた研究手法ですが,これは私の研究のモチベーション――実態とメカニズムの解明,異分野との共同研究――に合致しているのです.
モチベーションの一つは「実態とメカニズムの解明」です.社会学の目的の中に社会現象の記述(How, どのようになっているのかに答える)とその機序の解明(Why, なぜそのようになっているのかに答える)の2つがあります.この2つの目的を達成するのに,今の研究スタンスがマッチしているわけです.もう一つは「異分野との共同研究」です.数理・計量社会学は,問題を定式化し,問いとデータ・モデルをうまく結びつけることに長けています.モデル作成や統計分析担当として他の分野・領域と共著・共同研究を行うことで, 自らの価値を発揮しつつ,幅広い人間と社会の関係性を分析することができます.このモチベーションでさまざまな研究トピックを扱ってきました.
私が社会学者を名乗っている理由の一つは,そして手法を軸に置いた研究スタンスを取っているのは,多様な社会現象にアプローチできるからです.これからも,数理・計量社会学を軸にしつつ,さまざまな社会現象にアプローチする「社会学者」らしくない社会学者として,研究・教育を進めていきたいと思います.
※本稿は2024年12月13日に開催された第21回地球社会統合科学セミナーでの報告をベースに大幅に加筆修正をしたものです.
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