学府について

データとモデルから意思決定・社会経済現象・政策効果を分析する
栗田 健一 包括的東アジア・日本研究コース、社会的多様性共存コース
比較社会文化研究院-環境変動部門-基層構造

 2022年5月に比較社会文化研究院に着任した栗田健一です。私の専門は応用ミクロ経済学です。学部時代にミクロ・マクロ経済学やゲーム理論、計量経済学を学び、これらの手法を用いて、社会経済問題のメカニズムや政策の効果を分析し、社会をより良い状態に変えたいという志から大学院に進学しました。大学院では様々な講義やゼミ、学会に参加し、とても充実した院生生活を過ごしました。

 私の院生時代の主な研究テーマは、福祉制度におけるスティグマの経済分析です。貧困からの救済を目的とした生活保護のような福祉制度において、貧困状態であり福祉を受給する資格があるにも拘らず、福祉を受給していないという家計が存在することを漏給と呼びます。この漏給の原因として、様々な要素が考えられますが、特に重要な要素のひとつがスティグマ(社会的烙印)です。スティグマは古代ギリシャにおいて、奴隷や罪人に彫っていた刺青や焼印に起源していると考えられています。このスティグマは、視覚的に観察可能な属性だけでなく、学歴や職業、そして福祉の受給といった非視覚的な属性に対しても生じる可能性があります。私の修士論文と博士論文では、スティグマによる心理的コストがプレイヤー(意思決定主体)の意思決定に影響を与え、また各プレイヤーの意思決定もスティグマに影響を与えるという状況を分析しました。興味のある方は、一般向けの記事を東洋経済オンラインに掲載しているので、こちらをご覧下さい(https://toyokeizai.net/articles/-/574540)。この研究は、まず数理モデルを構築し、スティグマの強度と各プレイヤーの意思決定の均衡解を導出し、導出した均衡解において政策変数が変化した場合の影響を分析しました。次に理論分析の結果OECDパネルデータを用いて検証し、理論分析の結果が頑健であることを明らかにしました(https://doi.org/10.1111/ijet.12295)。現在はベーシック・インカムと生活保護制度の比較分析を進行中で、研究成果の一部を査読付き国際誌に掲載しています。

 他の研究プロジェクトも行なっているので、幾つか紹介します。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大下における緊急事態宣言の外出自粛効果を人流データを用いて検証しました。この研究は査読付き国際誌に掲載しています(https://doi.org/10.1007/s41885-020-00077-w)。また、進化ゲーム理論を用いて動学分析した研究も行い、こちらは公共選択学会から川野辺賞を受賞し、その研究成果も査読付き国際誌に掲載しています(https://doi.org/10.1007/s13235-022-00426-2)。さらに、緊急事態宣言が発出回数を重ねるにつれて、自粛効果が弱まっているという仮説を検証しました。

 無作為化比較試験を行い、環境教育が向環境活動に与える影響を検証する研究も行なっています。こちらは、RIETI(経済産業研究所)のディスカッション・ペーパーとして公開し、現在査読付き国際誌へ投稿中です(https://www.rieti.go.jp/jp/publications/summary/22050012.html)。

 企産学連携プロジェクトも行なっています。株式会社ふくおかフィナンシャルグループ及び株式会社サステナブルスケールと共同で、約200項目の評価データを用いて、企業の相対的なSDGs/ESGに関係する取り組みを評価するための指標であるSustainable Scale Index(SSI)を開発しました。このSSIは、株式会社福岡銀行、株式会社熊本銀行、株式会社十八親和銀行に提供を開始しています。企業のSDGs/ESGの達成度を数値化することによって、持続可能なより良い社会の実現に貢献することが目標です。詳細はこちらをご覧下さい(https://www.s-scale.co.jp/)。

 他にもご紹介したい研究がありますが、紙幅の都合上ここまでに留めます。

(写真)共同研究のため、La Trobe大学(メルボルン)に滞在した時の写真です。自然豊かなキャンパスで、芝生の上で論文を執筆していたのが良い思い出です。

 

プロフィール

担当科目:データサイエンス I~VIII,Data Science I~VIII