九州大学大学院 地球社会統合科学府 Graduate School of Integrated Sciences for Global Society 比較社会文化研究院 Faculty of Social and Cultural Studies

学府について

新任教員紹介

九大博20年、遺されたものが語ること

米元 史織

包括的東アジア・日本研究コース 地球社会統合科学府
九州大学総合研究博物館

2020年度から地球社会統合科学府包括的東アジア・日本研究コースの兼担教員となりました、九州大学総合研究博物館の米元史織です。私は、2015年3月に地球社会統合科学府の前進である比較社会文化学府博士後期課程を単位取得退学し、九州大学総合研究博物館開示研究系(支援教員)に着任、同年11月に比較社会文化学府で博士(理学)を取得しました。その後、2018年2月に総合研究博物館(助教)に正式に着任しています。

 専門は、人類学(形質)です。自然人類学、生物人類学ともよばれ、人類化石から現在生きている人までを視座に含め、ヒトの適応・多様性・進化を扱う生物科学であり、さらに、形質人類学は、人間の文化や行為のコンテクストの中で生物としての人を研究するため、社会科学たりうる(American Association of Physical AnthropologistsのHPより引用)と定義されています。諸外国と同様に、日本においても形質人類学の研究は、系統論、すなわち人類の起源やその来歴を解明するために確立しました。現在、日本人類学会の公式ホームページでは、「生物としてのヒト」を総合的に研究する学問であるとし、ヒトとは何かを科学的に偏りなく理解し、実証的で妥当性のある人間観を確立することを目標としていると記されており、人類史を再構築するということが大きな目的であるといえます。遺跡から出土する人骨が主な対象であるため考古学ととても近く、一方でヒトという生き物の研究でもあるため生物学や医学にも近い学問です。   

その中で、私の研究の主要テーマは、骨形態の変異から過去の人々の生業様式・生活様式を明らかにすることです。主として、筋骨格ストレスマーカー(Musculoskeletal Stress Markers; 以下MSMs)という手法を用いており、この方法は、四肢骨の筋・靭帯・腱付着部の発達度から、どの部位が発達・負荷が強かったか、または発達していない・負荷が弱かったか、を検討することで、身体をどのように動かしていたかを読み取る方法です。身体の使い方を読み取ることで、過去の人々の生業様式や生活様式を復元し、その男女差や地域差、年齢差、階層差を検討し、この違いから、男女の分業や年齢による活動の区分、個人間の活動差が地域や時代によってどのように異なるのかを検証していきます。例えば男女間の活動差の時代変化を検討することで、性別役割分業の確立との関連を読み取る、など社会の複雑化・階層化の進展との関連を明らかにするという研究を行っています。

私が所属する九州大学総合研究博物館には約3000体の古人骨が収蔵されています。いずれも他に変えることのできない資料ですが、弥生時代北部九州・山口地域の古人骨は日本人の起源論の実証的研究の中心となった学史的に重要な資料群です。これらの資料に基づいて実証的に、弥生時代に大陸から人が列島に渡来し、列島にそれまで住んでいた人々と平和的に共存し、水稲農耕を中心とした新しい文化を形成したことが明らかとなっています。そして、いわゆる渡来的形質や文化は列島に広がりながらも地理勾配があること、縄文的な形質を色濃く残す地域も同時に存在したことなども明らかとなっています。

九州大学で行われてきた研究を、その資料を所蔵することで未来の世代へつないでいくことが九州大学総合研究博物館の意義です。1950年に九州大学に着任した金関丈夫氏をはじめとし、永井昌文氏・中橋孝博氏・田中良之氏など多くの先生方によって発掘された古人骨は、日本列島に住む人々の歴史を明らかにするために極めて重要な資料です。しかし、これらの資料の学内的位置づけは決して安泰ではありませんでした。研究の潮流の変化とともに古人骨資料を必要とする研究者の所属は変化し、それに伴い1994年9月に医学部医学部解剖学第二講座から比較社会文化研究院に、2005年10月に博物館に移管されました。3000体にも及ぶ古人骨の移設には多くの労力・時間・資金が費やされました。これは、当時それにかかわった多くの方々が資料の学史的な重要性のみならず、今後も多くの研究者がこの資料を用いて新しい研究を行い続けること、研究者を目指す学生たちがこの資料を必要とすること、展示や教育の場で実物資料が持つ「見る人に訴える力」があることを確信していたからなされたことです。その献身のおかげで私も研究者であり続けることができ、また国内外様々な研究者が毎年調査に訪れ、新しい成果が次々発信されています。

これは古人骨資料に限ったことではなく、当館に所蔵された資料群すべてに言えることです。昆虫・鉱物・植物・化石・考古など様々な分野の計1,456,501点もの資料はすべて九州大学の100年にわたる歩みの中で行われてきた研究の歴史であり、これらの資料を用いることでこれからも新しい成果が生み出されていくと思います。

2020年、総合研究博物館は創設20周年を迎えました。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によって博物館は開館できなくなり、授業も会議もオンライン化し、マスクやアルコール消毒液を手放せない新しい生活様式は今も続いています。そのような生活の中で、博物館やそこで展示されるべき研究は、私が九州大学で学んだ学問とは、平和な世の中のぜいたく品なのか、命を守ることを大前提としたうえで、出来ること・すべきことは何かを模索する日々を送っています。いまだ先行き不透明な日々は続いていますが、九州大学に所属する先生方の熱意と意欲によって集められ今に残されたモノと、モノを対象とした真摯な姿勢によって生みだされる研究が、観る人に訴える力を信じて、総合研究博物館では今後も様々な成果を発信していきます。

現在、1つの試みとして、20周年WEB展示『九大博20年ものがたり』を行っています。LINEスタンプ(有料)やオンライン会議用の壁紙(無料)なども配布しておりますので、多くの方に博物館のHPをご覧いただければ幸いです。

 

プロフィール
担当科目:総合演習(包括的東アジア・日本研究コース)