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若手最優秀発表賞を受賞して
佐野 亘 包括的地球科学コース

発表タイトル:「石垣島名蔵湾のサンゴ礁における干潟・海草帯の発達史」

佐野 亘

 2022年11月11~13日に沖縄県石垣市で開催された日本サンゴ礁学会第25回大会にて、若手最優秀発表賞(口頭発表)を受賞いたしました。

 私が研究対象地域としている海草藻場など沿岸の浅瀬は、豊かな生態系を育む一方で人工的改変の影響を最も受けやすい地域のひとつと言われています。石垣島の西岸にはマングローブ林と広大な干潟、そして沖合にはサンゴ礁が広がる、名蔵湾という場所があります。このマングローブ林は名蔵アンパルと呼ばれ、ラムサール条約登録湿地、西表石垣国立公園の一部にもなっています。しかし、近年は農地開発等による影響で名蔵川河口付近の赤土土壌の流出が問題となっており、台風や大雨のたびに大規模な赤土の流出が確認されています。また観光用施設の建設が計画されるなど(2022年12月現在は計画の中止が発表されている。)、さまざまな人為的な撹乱に晒されている場所です。

 本研究では石垣島の名蔵にて、マングローブ林・干潟・サンゴ礁の一連の環境がどのような過程で形成されたのかを高解像度な時間データと共に明らかにしました。私は2020年に日本学術振興会の特別研究員として、後輩の修士学生2名と共に名蔵の干潟・海草帯でのボーリング調査を実施しました。そこで採取したボーリングコアサンプルを用いて、共同研究先である東京大学大気海洋研究所にて高解像度な年代測定を自ら実施しました。これらの研究活動の結果、現在は海草などが繁茂する名蔵の干潟(泥地)が、およそ4000年前以前にはサンゴが多く生息するサンゴ礁の海であったことが明らかになり、縄文時代の海水準変動に伴ってサンゴ礁の海底が徐々に陸域起源の堆積物で覆われていったことが新たにわかりました。本研究は、これまで別々で議論されることが多かったサンゴ礁・干潟や海草帯・マングローブ林のぞれぞれの沿岸生態系を、その発達史を通して一連のゾーネーションとして捉えた新規性の高い研究となりました。また昨今、自然保護の観点から注目が集まっている名蔵の自然について、地質学的なアプローチからその自然環境の固有性を明らかにすることができたと考えています。

 本研究の発表後、学会会場にてさまざまな方に研究内容について声をかけていただき、その中には地元石垣島のネイチャーガイドや環境団体の方々もいらっしゃいました。石垣市開催の大会で名蔵の自然に関する研究発表をすることができたことで、日頃からフィールドワークを行なっている石垣島の住民の方々にもその成果をフィードバックすることができたのではないかと思います。研究者の先生方はもちろん、地元の方々を含め本研究の内容に対し反響があったことを大変嬉しく思います。

 本研究は堆積物コアサンプルを採取するためにボーリング調査の過程で地面に穴を開け、調査地点の自然環境を攪乱しています。非常に小規模ではありますが、環境破壊をして得たサンプルということになります。この研究がもたらす社会的インパクトが自然環境へのさらなる理解を促せるような物になるように、その責任を持って研究をしていきたいと考えています。この研究内容が少しでも多くの人の目に留まり、名蔵湾の自然や地史について知っていただけたら嬉しいです。そのためにも貴重なサンプルを使って更なる分析をすすめ、論文化をしていきたいと思います。学生の身分での最後の学会となる日本サンゴ礁学会でこのような賞を頂けたことを大変光栄に思います。今回いただいた賞に恥じぬようこれからも精一杯研究活動に邁進して参ります。