洋上風力発電のための海底地形調査

日本の島嶼部における再生エネルギー開発について

 洋上風力発電などの再生エネルギーの開発を離島で行う場合、発電機の設置場所だけでなく、海底ケーブルの敷設ルートの検討が必要となります。特に、島およびその周辺海域の開発に際しては、海底地形や底質(岩・砂・泥などの海底の構成)、魚類や鳥類・底棲生物などに関わる生態系、水中文化遺産の所在などを考慮した海洋空間計画(MSP: Marine Spatial Planning)が必要です。

【日本の自然環境の独自性】

 日本列島は地形学的に、プレートの沈み込みにともなって生じた島弧変動帯にあたります。多数の小規模な島が連なるとともに、島嶼間の海底地形も複雑です。このため、欧米などの大陸周辺の海域とは異なり、細かな変化に富む地形が島やその周辺海域をつくっています。また、世界で最も水温が高い西太平洋を源とする世界有数の暖流である黒潮と、その分流の対馬海流が北流する海域でもあります。このため、海洋生物の種多様性が高く、回遊性生物やカツオドリなどの渡り鳥も多い地域です。日本が位置する東アジアの島嶼域は、地球上に約10万年周期で訪れる氷期-間氷期の繰り返しの中で生物の逃避地が自然に確保された歴史があるため、陸上の生物多様性にも富む地域です。このように、日本は種多様性に富む豊かな自然環境を持つとともに、わずかな場所の違いで土地条件が異なる「こまやかな自然環境」をもつことが、欧米などの大陸地域と大きく異なります。このため、欧米で行われている事例を日本にそのまま導入すると、地域の自然環境に適合しない場合が出てきます。

【水中文化遺産の保全】

 2001年にユネスコ総会で採択され、2009年1月より発効された「水中文化遺産保護条約」によって、100年以上水中にある沈没船などの文化遺産を水中文化遺産と定義して保護の対象とすることとなりました。この条約では、水中文化遺産の商業利用の禁止、現状での保護・保全を優先、専門家による調査の必要性などが定められました。日本はまだこの条約の批准に至っていませんが、国際法秩序の尊守を求める国際世論があるため、同条約を無視できない情勢にあります。水中文化遺産となる沈没船の多くは岩礁などへの座礁によるものですので、沿岸海域の浅海底にその遺物を残しています。沿岸域で開発を進める際には、将来の水中文化遺産保護に対して瑕疵を残さないよう、沈没船などの水中文化遺産を避けた海洋空間計画(MSP)の立案が必要です。

【海洋空間計画に必須となる海底地形図の整備】

 陸上では、国土地理院が1/2,500および1/5,000国土基本図を作成しており、それを基に地方自治体などが都市計画図などを作成し、開発を行っています。海域には、海図があるのみで、陸上の国土基本図に相当する地図はもとより、1/25,000地形図に相当する地形図も未整備です。その中で開発と環境保全のバランスを保つことが求められています。すなわち、何処にどのような地形や堆積物があるかなど、海底の土地条件に関する情報が詳細に得られていない状況で開発計画を作成し、環境保全との兼ね合いを議論している状態です。
 開発と環境保全の調和を図った海洋空間計画(MSP)を策定するには、まず、開発地域だけでなく、その周辺海域も含めた高解像度海底地形探査を実施する必要があります。九州大学浅海底フロンティア研究センターの菅研究室では、保有するマルチビーム測深機を用いて、水深1~400 mまでの海底地形を1~2 mグリッドあるいはそれ以上の高解像度で可視化しています。これまでに琉球列島をはじめとした日本沿岸の海域で測深を実施し,世界的にも最高レベルの浅海域高解像度地形情報を得ることに成功しています(代表的な実績)。
 島嶼沿岸域の再生エネルギー開発においては、1/2,500または1/5,000の海域基本図(仮称)を作成し、それを基に、地形学や堆積学、生物学や水中考古学などの学術調査を進め、地域の漁業者の知識などを盛り込んだ上で、海洋空間計画(MSP)を策定して、海域の開発と保全を進めることが望まれます。

【合意形成の基礎としての海域情報整備】

 開発地域およびその周辺海域が、どのような海底の「土地条件」を持っているのかを明らかにすることはきわめて重要です。例えば、海底ケーブル敷設ルートは、岩礁を避けるなど波浪や流れによってケーブルが摩耗しない場所を選ぶ必要があります。また、台風時の暴浪の下では海底の礫(岩屑)が移動することによってケーブルに損傷を与えることが想定されますので、このような底質の場所も避ける必要があります。
 ケーブル敷設ルートは貴重な生態系をもつ海域を避けることが必要です。これには高解像度海底地形図(海域基本図)を基にした生物調査によって、生態学的に重要な海域を抽出することが必要です。  開発対象海域に沈没船などの水中文化遺産が発見される可能性がある場所があった場合、その場所を避けた開発を行うよう、海洋空間計画(MSP)を作成する必要があります。
 沿岸域の高解像度海底地形情報を基に、生態学的に、文化・歴史学的に、地形・地質・海洋学的に重要なエリアは保全し、人間が利用する開発エリアと区別して、調整を図る必要があります。このような開発と環境保全の調和を図った海洋空間計画(MSP)を策定することは、環境保全・文化財保全に関する国際世論を味方に付けることにもつながります。

【将来の海底ケーブルのメンテナンスについて】

 海底ケーブルを長期にわたって管理し続けることは、電力の安定供給に必要なことですが、海底に敷設したケーブルを監視することは容易ではありません。しかし、海洋空間計画(MSP)で使用する高解像度海底地形図(海域基本図)は、敷設後の海底ケーブルのメンテナンスにもきわめて有効です。海底ケーブルの位置や海底地形が変化したと考えられる場合は、再度マルチビーム測深を用いてケーブル周辺の海底地形を計測し、ケーブルの位置や周辺の底質(砂や礫など)の変化をモニタリングすることができます。この他にも、ケーブルのメンテナンスに関する新たな技術開発が進んでいます。

 
九州大学 浅海底フロンティア研究センター
センター長 ・ 教授   菅 浩伸
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