研究内容
人類のフロンティア「浅海底」を開拓する
石垣島での発見が物語る沿岸域の課題
我々の研究グループは一連の研究の中で,石垣島西海岸の名蔵湾にて大規模な沈水カルスト地形を発見しました。海底には,氷期の河川跡とみられる蛇行した谷が走り,多数の閉じた凹地形が分布していました。氷期の低海水準のもとで地下水系によって形成されたカルスト地形が基になっていると考えられます。凹地の直径は100~500 m程ですので,潜水調査で見渡すことができるスケールを越えています。沿岸近くなのですが,このような地形が広がっていることは誰もが予想すらしなかったことでした。 精密海底地形図ができると現地調査が可能となりました。名蔵湾は水深5 mから40 mに至る斜面が数多くみられ,地形図なしには潜水計画が立てられない起伏の激しい海底でした。何度か潜水調査を行うと驚くべき発見がありました。名蔵湾には見事な造礁サンゴ群集が数多く棲息していたのです。これまで名蔵湾沿岸のサンゴ類被度は10%以下と,石垣島の他の海域と比べて極端に低く報告されていました。また,名蔵湾は名蔵川河口から流出する赤土で汚染された濁った海域であると考えられており,石垣島と西表島の間に広がる美しいサンゴ礁「石西礁」とは対照的な海域であると考えられていました。ところが実際には汚染の少ない生物量豊かな海域であり,大規模なサンゴ群集が成立していることが発見されたのです。人口約5万人の石垣島沿岸域でこのような未知の地形と大規模な生物群集が発見されたことは,人里に近い沿岸域であっても未だ科学的知見がきわめて少ないことを物語っています。
浅海底研究の展望
我々は場所がもつ意味を学際的に捉えることを大切にしています。現代科学は物事を要素に分解することで発展してきました。しかしこれらの科学的理解は,総合的な視点をもって統合され理解しなおされる必要があります。複雑で微妙なバランスの上に成立している「環境」に対する理解はその一例でしょう。 人口やインフラが集中する沿岸域は防災上重要な場所であるとともに,人による海域利用も盛んな場所です(図2)。このため直接の開発や陸域開発の影響が及びやすい場所でもあり,科学的探査を急ぐ必要があります。かつて埋め立ての舞台となった干潟の価値がその後見直されてきたように,浅海底も今後の研究によって社会における評価がかわってくる可能性が大いにあります。今後,浅海底の精密な地図を作り,その上で沿岸防災や海域利用など人と自然が関わる学際研究を広く展開することによって,沿岸部における持続可能な地球社会をどのように構築していくか考えることができるでしょう。
最先端の浅海底地形図づくりとその活用
新たな海の探求技術「マルチビーム測深を用いたサンゴ礁および沿岸浅海域の海底地形探査」
一般社団法人 海洋調査協会 協会報No.142(2020年10月) 寄稿
最先端の浅海底地形図づくりとその活用-沿岸域の科学的理解と利用に向けて-
2018年1月20日にシンポジウムを開催し、沿岸浅海域における最先端の浅海底地形図づくりと,浅海底地形図の利用例について産学官の取り組みをご紹介しました。
未知なる海底への希求「地図から始まる学際研究」
株式会社リバネス 西山哲史氏による 浅海底フロンティア研究センターシンポジウム「最先端の浅海底地形図づくりとその活用」紹介記事