博士研究員(PD) かんき

   
  神吉 隆行   _TAKAYUKI Kanki  
  ▶ 日本学術振興会特別研究員 PD  
  大阪大学理学部 生物科学科 生命理学コース卒業  
  東京大学 大学院農学生命科学研究科 水圏生物科学専攻 博士課程修了  
     
  ダイビングをしたときに、様々な海藻類が生える海中林や、「水中のお花畑」ともいわれるカイメン類やソフトコーラルなどによる色彩豊かな景観に感動し、この景観を作り上げている付着生物群集に興味を持ちました。付着生物の各種の分布がどのような法則で決まっているのかを明らかにするためには海底地形に着目する必要があると考え、国内で唯一、研究として浅海底地形測量を行っている菅研究室に参加させていただきました。  
     
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■ これまで取り組んできた研究について
 修士課程から博士課程にかけて、岩手県大槌湾の海でフォトグラメトリによる海底地形測量を用いて、付着生物(岩に付着するフジツボ類、ホヤ類などの動物と海藻類の総称)の各種がどのような海底地形の条件に生息・生育しているかを調べる手法を確立する研究を行ってきました。自然岩礁だけではなく人為的に投入された漁礁構造物も対象とし、どのような形状の人工構造物を設置すれば、藻場の造成や生物多様性の向上に適しているかを検証する手法も提案しました。
顕微鏡で生物の種同定をする様子
   
唐津の海でのマルチビーム測深調査中、船内でデータを確認
 
■ 現在取り組んでいる研究について
  フォトグラメトリでは、ごく狭い範囲の海底地形情報しか把握することしかできませんでしたが、現在は、フォトグラメトリによる高解像度の海底地形情報と菅研究室が蓄積してきたマルチビーム測深による広範囲の海底地形情報を組み合わせることで、あらゆるスケールの海底地形情報を基に、生物の分布条件を明らかにする方法の確立を目指しています。
 具体的な材料として、九州北部沿岸の海藻藻場に着目して調査しています。藻場は、サザエ・ウニ類など水産上重要な生物の住処となる環境ですが、近年磯焼けによってその面積は激減しており、沿岸における漁獲量減少の主要因の一つと考えられています。磯焼けの現状把握および対策のためには、海底地形情報を用いることで、まずはどのような立地で海藻が減っているのか、あるいはまだ残っているかを明らかにすることが必要です。
■ この研究の面白さ
 これまで海底地形情報と生物の分布情報を同時に取得することは困難であったため、海底地形と生物の分布との関係を調べた研究はまだほとんどありません。未開拓の領域で、手法面の整備から取り組める点がこの研究のやりがいがある点です。この研究で扱う海藻藻場の立地条件だけではなく、魚類の産卵環境や行動パターンや地形との関係、生物が豊かな海岸整備方法の提案など、様々な生態工学的な応用可能性も期待できる点がこの研究の面白い点です。
 
採集した海藻類の計測
 
九州大学の地元・糸島の海での調査
 
■ 普段の研究活動
 福岡県糸島市の姫島や佐賀県唐津市の七ツ釜や馬渡島で、定期的に潜水調査を行っています。海中で撮影した写真を基に、海底地形の3次元モデルを構築し、どこにどんな海藻が生えていたかを3次元地形モデル上に記録します。この情報を基に、各種がどのような条件に多く出現していたかを統計的に解析していきます。岩礁のような複雑な地形の3次元モデルは、通常の地理情報ソフトウェアでは扱えないため、地形形状の特徴を解析するためのプログラムも自力で組んでいます。
 現地で採集した付着生物は実験室に持ち帰って顕微鏡で観察し、種同定をします。採集した生物は標本にして保管しています。これは、玄界灘沿岸の生物相に関する情報の蓄積にもなります。
 
■ 興味のあること
 昔から生き物全般が好きなので、休みの日は野山で植物や昆虫(主に蛾類)の探索をしています。休日の探索の成果は、絶滅危惧種の情報を掲載するレッドデータブックへの情報提供や、地域の生物会誌へ数十年記録が途絶えた種や県初記録種の発見報告として発表しています。
 
 
 
■ 今後の目標
 本研究の目標の一つは、(例えば)藻場の再生のための海岸整備をする際に、どのような形状の人工構造物をどのような場所にどのように配置すれば最適であるかをシミュレーションし、工法の提案をすることです。将来的には、自治体や海洋土木会社などと協力し、シミュレーション通りにうまく海藻が生える設計ができるか、現場で検証する実験も行うこともできればと考えています。
  ※調査活動は、研究目的としての許可を得て行っています。
 
 
 
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