ちはる と はづき <大学院修士課程>

大学院修士課程(博士前期)に進学した加藤花月さん(右)と垣花千春さん(左)に、研究や学生生活のことをお話ししてもらいました。
違う研究室に所属していながら、「沖縄」という共通点を通じて新学期早々に仲良くなった二人です。
― まずは、小さい頃のことから聞かせてください。二人とも、どんな子どもでしたか?
加藤:自分はすごく好奇心旺盛で、自然の中で走り回っていました。実家が海の近くで海が好きだったので遊びに行くことが多かったです。半袖半ズボン、裸足でいるのが好きだったので、とても日焼けしていましたね。今も芝生の上で裸足になりたいぐらいです。
垣花:靴が邪魔ってことですか?(笑)
加藤:そうですね。(笑)芝生や砂浜を感じたくて。今もフィールドに行くときは、子どもの頃の気持ちを忘れないでいたいと思っています。もしかしたら新しい発見があるかもしれないので、当たり前を当たり前に思わず、常にワクワクしていよう、と。
垣花:元気な子どもだったんですね(笑)
加藤:はい!それに、母がお出かけ好きなこともあって、いつも車であちこちに出かけていました。ただ、車の助手席に座った人が地図を見てナビをしないといけなくて、三姉妹で誰も助手席に座りたがらないんです。それで、長女の私がいつも助手席でした。(笑)
   今考えると、そういう子どものときの経験が研究の入り口になったのかもしれません。今は、地図を持ってどこかに行くのが好きです。
   垣花さんはどんな子どもだったんですか。

加藤 花月 (かとう・はづき)

垣花 千春 (かきのはな・ちはる)
垣花:わたしは絵を描くのが好きな子どもでした。スケッチブックだけでなく壁や扉にまで絵を描いていましたね。(笑)また、祖父が沖縄戦の体験者だったため、戦争の体験談やアメリカ軍の占領下の話を幼い頃からよく聞かせてもらっていました。そのため、昔から戦争に関心を持っていました。
   それで、卒論を書くときに、自分がこれまで興味を持ち続けていた戦争と芸術、文化を組み合わせられないかと思ったんです。
   卒論では、戦争と文化に関する論文を書きたいと思って文献を読みました。「戦争と音楽」、「戦争と演劇」などテーマは色々ありましたが、その中から「戦争と文化遺産」が特に面白いと感じたんです。文化遺産と戦争に大きな関わりはなさそうに思っていましたが実際には、敵対する民族の歴史を否定するためにその象徴である建物を破壊したり、文化遺産が国家間対立の火種となったりと、それまでは思い至らなかった出来事が世界各国で起こっていたと知り、深く知りたい!面白い!と感じました。そして文化遺産のうちでも、特に戦争遺跡や戦争に直接関連することに興味が湧いて、それが今の研究につながっていますね。
― 今年は沖縄の本土復帰から50年という節目の年でしたね。
垣花:毎年5月にパレードがありますよね。
加藤:沖縄にいると5月15日(沖縄復帰の日)、6月23日(慰霊の日)というのはよく考えます。戦争に対する距離感が、とても身近な気がしています。県外にいると、沖縄の出来事を気にかけていないと殆ど知らないままなので、全然違いますね。
垣花:沖縄県外だと、本土復帰の日も慰霊の日も知らない人もいらっしゃるかもしれません。福岡に引っ越してきたばかりの頃は、慰霊の日が休日でないことに違和感を覚えていました。沖縄県外の人にとって、太平洋戦争は身近なものでなものではないのでしょうか。

大講義室下のベンチで (垣花)

― ところで、普段は何をしていますか?
研究室のフィールド調査に参加した糸島の海で (加藤)
加藤:最近、朝活を始めて、読書をしています!
   未来共創リーダー育成プログラム(複合的な課題を解決するための方策の立案・設計・実施ができる人材を養成することを目指した九州大学の博士課程リーディングプログラム、https://gipad.kyushu-u.ac.jp/)に参加しているんですが、その学生部屋に、先生たちが選んでくださった本が置いてあるんです。朝一番に学生部屋に行って自然保護・保全や地域活性化などの本を読んでいます。そうすると、一日のスイッチが入るので、未来共創の友達と一緒に日課にしようと頑張っているところです。
垣花:朝から偉いですね。
加藤:未来共創の部屋にいくと、他の分野の学生と会えるので、ちょっと社会に近い感じがしています。専門分野のこと以外を知ることができるから楽しいんです。
   例えば、少し自分の研究の話をすると「カルストって何ですか?」と質問してくれたり…少人数なのでお互いに踏み込んだ話ができて、刺激になっています。いろいろな学生とコミュニケーションを取ることで、情報を収集できたり、アプローチの方法についてアイデアをもらえたりもしますし。
   九州大学にはこうした大きなプロジェクトがあって、予算も出て、学生がチャレンジする場があるのが素敵だなと思っていて。もう少し予算をもらって、もっと調査に行きたいですね。(笑)
― 二人とも大学院から九州大学に来られましたが、実際に来てみた印象はどうですか?
垣花:専攻が異なる様々な先生や学生がいて、多様な学問分野に触れることができるので、視野が広がるのが素敵ですね。周りの大学院生も皆、好奇心が強く、専攻が違っていてもそれぞれの研究に興味をもって話が広がっていくので、刺激を受けます。菅先生が自然地理学から戦争遺跡まで研究されていることからも分かるように、学生も学際的な学び方ができる点が魅力的です。九大に来て新しく知ることも多かったです。あと、校舎がすごくキレイです!(笑)
加藤:研究室に先輩がいるのが心強いですね。先生やスタッフの方にも、すぐ話しかけられるオープンな雰囲気なのが嬉しいです。それに、九大のある糸島近辺は、私の地元(新居浜)の景色と似ていて安心します。近くに海があって、田んぼと山が広がっている感じとか。

菅研究室のゼミの様子

― 研究テーマについて聞かせてください。
沖縄県宜野座村・松田鍾乳洞での調査 (加藤)
加藤:「琉球列島のカルスト地形(石灰岩地域に形成される地形)がどういうプロセスで形成されるのか」を、卒論から研究しています。学部時代にカルストの研究をしている先生に出会い、興味をもちました。
   卒論では、沖縄本島を対象に、河川に沿ってできる石灰岩堤の高まりについての分布と形状を調べて、現在の地形から過去の形成過程を予測しました。修士課程では、隆起サンゴ礁を対象にして、カルスト化開始直後に起こる現象を解明したいと思っています。表面の地形はもちろん、内部の地質構造についても電子顕微鏡やX線回折装置などの様々な装置を使って観察や実験をすすめていきたいですね。
垣花:私は「沖縄戦の戦争遺跡の観光資源化」について研究したいと思っています。
   戦争遺跡は「観光」という言葉から連想される楽しい場所ではなかったり、経済活動に使っていくのは不謹慎といった印象も受けたりするのですが、実際には、旅行や観光で訪れる方も多いところが不思議で。また、最近論文を読んでいて、戦後の琉球政府が戦跡を観光資源として利用し、観光客を誘致するという旨の文書を出していたことを知り、戦争体験者である世代の琉球政府の人々が、公式の施策として戦争遺跡の観光資源化に積極的だったことに驚きました。
   戦後の観光の活動、記録を知り、戦争遺跡の観光資源化にはどのような意図があったのか、観光資源化によって社会にどう影響を与えたのか、明らかにしていきたいです。
― お二人とも沖縄を調査地にしていますが、研究内容が全く違っておもしろいですね!
垣花:そうですね。大学院は、文系も理系も皆、違う研究をやっているところが魅力だと思います。

菅教授の研究テーマのひとつである戦争遺跡・米軍艦「USSエモンズ」の3DCG (垣花)

― 将来の夢を教えてください。
沖縄の風景(垣花)
垣花:今は何かしら、研究と関係のある職業に就きたいと思っていて、マスコミや文化財に関わるところを考えています。遺跡に関係する仕事をしたいですね。
加藤:いつかは沖縄に帰りたいですか?
垣花:死ぬまでには沖縄に帰りたいですね。それまでは、全国いろいろな地方都市に行ってみたいです。寒すぎるところは嫌ですけど…(笑)
加藤:私は沖縄に帰りたくて…沖縄のためになる仕事がしたいんです。
垣花:一度住んだ人に帰りたいと言ってもらえるのが、地元民として嬉しいです。
加藤:九大に来てちょっと気持ちが固まりました。もともと地理学に関わる仕事をしたいなとは思っていたんですけど、学部時代、先生が研究に熱心に打ち込む様子を間近で見て、私が目標にしたい人は、先生のような失敗知らずで、手を動かし続ける人だと思ったんです。そこから九大に来て、さらに研究することに関心を持つようになりました。先輩や先生が自身の興味あることにずっと向き合っている姿がキラキラして見えるんです。たまにものすごく疲れた顔をしてますけど…(笑)。それを見ると、くじけてももう少し頑張ってみようという心意気になるというか。
   学部時代は「地理学を専攻しています」と自信を持って言えなかったけれど、大学院でそこをクリアして、研究や地理学に関わる仕事がしたいんです。
― 最後に、大学院への進学を考えている人へ、メッセージをお願いします。
加藤:学部4年生の進路を考えていたとき、人生で初めて進路に悩みました。自分のことを嫌いになりそうなくらい…これがやりたい!という決め手がなくて。だけど、「後悔がないってことは絶対にないと思うから、自分のやりたいことはたくさんやろう!」という、憧れのバスケ選手の言葉に後押しされました。自分の可能性を自分が信じてあげなきゃ。と思って決意しました。
垣花:やっぱり迷いますよね。私も進学自体はすごく迷って、修士課程で研究を進めていく自信がありませんでした。歴史に興味を持ったのも遅くて。でも、研究とか形に残ることをして、沖縄に還元したいと思ったので、進学しました。
加藤:悩んだ時は自分としっかり向き合ったうえで、「為せば成る、為さねば成らぬ、何事も」といつも自分に言い続けています。

九州大学キャンパス内の食堂テラス席にて

― ありがとうございました!これからのお二人の研究が素晴らしいものになりますように!大学院生活も大いに楽しんでくださいね。
 
 
Profile

 
加藤 花月  KATOH Hazuki
九州大学大学院 地球社会統合科学府 修士課程 包括的地球科学コース 菅研究室所属。
 学部生時代を過ごした沖縄を離れ、九州大学大学院の菅研究室にやってきました。修士課程の2年間では琉球列島における隆起サンゴ礁の初期カルスト化過程を明らかにするため、野外調査、岩石薄片やスラブの顕微鏡観察といったマクロ的視点と、ミクロ的視点の両方からアプローチした研究を行おうと計画しています。キンタコの大盛りタコライスが恋しくなることもありますが、新天地・菅研究室にて伸び伸びと研究活動に励んでいます。愛媛県出身、琉球大学卒。
卒業論文:加藤花月,「沖縄島中南部における河川沿いに形成される石灰岩堤の分布と形態的特徴」2021年
 
垣花 千春  KAKINOHANA Chiharu
九州大学大学院 地球社会統合科学府 修士課程 国際協調・安全構築コース 松井研究室所属。
 もともと、一見遠い関係にありそうな「文化」と「政治」の繋がりに興味があり、卒業論文では旧ユーゴスラヴィアやアジア諸国で紛争時に文化遺産が破壊された事例を研究していました。そうして世界各地の文化遺産について知っていくうちに、最終的には「戦跡が持つ力」に関心を持ち、大学院に進学して戦跡の研究をしたいと思うようになりました。九州大学大学院では松井研究室に所属し、自分の故郷である沖縄の戦跡に絞って知識を深めていく予定です。また菅先生の研究テーマの一つが沖縄戦の戦跡である「USSエモンズ」ということもあり、菅研究室のゼミにも参加するなどして研究に取り組んでいます。沖縄県出身、福岡女子大学卒。
卒業論文:垣花千春,「平和構築における文化遺産の役割―文化遺産の政治的機能に関する考察―」2021年

 
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