中国海警法への問題提起

すでに報じられている通り、中国で新たな法律が制定されました。ただしその重要性は、メディアが言うような「武器使用」規定にとどまりません。歴史家は将来これを、中国と国際秩序の亀裂を決定づけた文書、と位置付けるのではないでしょうか。

重要な問題点だけ、いくつか記します。

・中央軍事委員会の指揮下にある中国海警機構(海警局+各地方の海警組織)の、中国政府内における身分規定がない。(海上保安庁が対峙する相手が、「中国」なのか「中国共産党」なのかわからない。)

・海警機構の第一の職責として「海上境界(海上界線)」を守ることと規定したが、そもそも中国の「海上境界」はトンキン湾部分以外は全域で未画定(中国が主張する「管轄海域」の50%が係争海域)。未画定のものを武力を含めた措置で守ろうとすれば、隣国との衝突を招く。

 なお、中国のいう「管轄海域」とは、自国が主張している領海+EEZ+大陸棚+「九段線」内のことで、第一列島線にほぼ沿った広大な海域です。

・「管轄海域」において海警機構に、他国の船舶を臨検し追跡し、他国が設置した固定・浮動装置を撤去し、さらには他国の軍艦・非商業船を排除する権限を認めた。武器使用もできる。つまり中国は実質的に、「管轄海域」を領土化しようとしている。いずれも国際法違反。

・海警機構は、外国組織・個人が中国の島礁に建造物・構造物を作ったり装置を設置したりするのも排除できる。(当然、他国が主権を主張している場所であっても。)

・領海と領土の「安全」を守るためという名目で、海警機構に「接続水域」で管制権を行使し、行政強制措置などを取ることを認めた。これも国際法違反。この部分は完全に尖閣を念頭としている。(他に「大陸棚」に関する措置も同様。)

・南シナ海に関連すると思われるところでは、省級以上の海警機構が「管轄海域」で「海上臨時警戒区」を設置し、船舶や人員の通行や停留を制限できることとした。国際法違反。

・海警機構の職責の中に、遠洋漁業や公海などでの科学調査の監督も入った。中国は今後、大和堆や沖ノ鳥島周辺でも日本への圧力を加速させていくでしょうし、おそらく世界中で似たようなことをやります。

・海警機構の政府内の身分は不詳ながら、国家は海上権益擁護のため、海警に経費と装備の保障を与える、と規定された。

残念ながら要は、中国はこの国内法で既存の国際海洋秩序から離脱していこうとしています。また日中間の問題は、島という点から日本の周辺海域全域に拡大しました。

全人代が同日に採択した法律の施行日は5月や7月ですが、この海警法だけは2月1日。新たな五カ年計画が立ち上がる本年4月に余裕で間に合います。今後は中国の発展計画の上で、海洋に関するさまざまな措置がどんどん立ち上がっていくと考えてください。だって、中国はそのために急いで法律制定をしたのです。

日本政府は同法が施行されるより前、つまり今月中に、中国に対して厳重抗議すべきだと思います。日中間でも海洋境界は画定されていません。中国が東アジアの海に自国の国内法を勝手に適用し、力による秩序変更を進めるのを容認してはなりません。「海警法を含めまして、中国海警局を巡る動向については高い関心を持って注視している(茂木外相)」とか、悠長なことは言ってられません。法律が施行されれば、中国の担当役人や軍人はその法律、そしてそれに基づいて内部で制定される様々な国内制度を全面的に運用しなければならないのです。

東シナ海の日本のEEZが香港化されていく。…日本はそれを座視していてよいのでしょうか?

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