九州大学 大学院比較社会文化研究院・地球社会統合科学府
桑原研究室 HP

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ここでは、平成23年度〜25年度科学研究費補助金によるプロジェクト研究「気候・環境変動指標鉱物の溶解・成長機構:温度可変AFM法によるナノスケール解析」の研究成果を簡単に紹介します。
この研究では、加熱原子間力顕微鏡(AFM)その場観察法に加え、このプロジェクト研究で新たに導入し確立を目指した「冷却AFMその場観察法」を併用し、特に、気候・環境変動の指標や環境保全として重要な鉱物にスポットを当て、溶液の組成や濃度に加えリアルタイムに温度を変化させることでより天然に近い条件でそれら鉱物の溶解・成長現象をナノスケールで捉え、その速度やメカニズムを解明することを目指しました。主たる研究課題は、以下の3つでした:
(1)室温以下の低温あるいは減温条件での鉱物の溶解・成長その場観察が可能な新しいAFMシステムを構築し、その新しいAFM法(温度可変AFM法)の確立を目指す。
(2)主要な硫酸塩鉱物である重晶石のAFM溶解その場観察実験、および、減温条件でのAFM結晶成長その場観察実験を行い、同鉱物の溶解・成長の過程、速度、メカニズムを明らかにする。
(3)硫酸塩・炭酸塩鉱物の低温条件での溶解・成長に関する天然現象の一例として、ネパール・カトマンズ湖堆積物にみられるラミナイト層(あるいはその構成鉱物)の生成条件を推定するとともに、インドモンスーン変動と本地域周辺の環境変化との関係解明を目指す。

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上の図は、クール・ステージAFMとスキャナー冷却システムを模式的に表したものです。AFM冷却システムは、ヒーター/クーラー・エレメント(クール・ステージ)、熱交換機を搭載したヒーター/クーラー・ピエゾ・スキャナー、サーマル・アプリケーション・コントローラー(TAC)、AFM液中セル、およびピエゾ・スキャナー冷却システムからなります。この新しいシステムにより、液中で4℃〜60℃の範囲内で0.1℃間隔で希望する温度にセットすることが可能になりました。

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これは、温度40℃の純水中での重晶石(001)表面で起こっている溶解現象を捉えたAFM像です。直線や曲線はステップ、三角形に見えるものは深さ0.36 nmのエッチピット、六角形に見えるものは深く溶けたエッチピットです。実は、この像は、2枚のAFM像を重ねています。1枚は溶解反応開始後約4時間後のもの、もう1枚は同じく約5時間後のものです。異なる実験時間のAFM像を重ねることで、ステップの後退速度やエッチピットの成長速度を決めることができるのです。この研究では、重晶石の溶解現象の詳細をナノスケールで捉えることに成功し、多くの新しい知見を得ることができました。

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上の図は、ステップ後退速度およびエッチピット生成速度に対するアレニウス・プロットです。これにより、重晶石の純水中の溶解反応の活性化エネルギーを推定し、溶解速度の温度依存性を把握することができました。今回得られた活性化エネルギーは、先行研究で報告されていたものよりも高い値を示しました。この差は、先行研究では純水中での溶解反応のデータだけでなく電解質溶液や異なる温度条件のデータを用いて推定されたことによるもので、純水実験のデータだけで再計算するとほぼ同じ値を示すことが明らかになりました。これにより、温度60℃までの条件では、重晶石の溶解速度の温度依存性はこれまで予想されていたものよりも高いことが明らかになりました。

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溶解現象だけではありません。硫酸バリウムの過飽和溶液を流すことで重晶石(001)表面で起こる結晶成長現象もその場観察することに成功しました。二次元核の形成と成長、スパイラル成長、プリズム状の成長棚の形成、およびそれらの成長速度など、これまでに報告されていなかったデータを得ることができました。

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写真は、カトマンズ盆地で掘削された古カトマンズ湖堆積物コアから発見されたラミナイト層。白黒の縞模様が見られますが、その厚さは1mm程度。白層部はマイクロメーター・オーダーの方解石結晶粒子、黒層部は有機質の粘土・シルトからなります。実はこのラミナイトは氷期にのみ出現することが解りました。白黒1対は年層に対応し、白層部はおそらく雨量がほとんどなく乾燥し水位が低下した氷期の冬期に湖水から方解石結晶が沈殿することによって形成されたものであると考えられます。つまり、氷期・間氷期変動やインドモンスーン変動の詳細を知るためには、このような鉱物の低温条件での結晶成長現象を理解することが重要になります。この新たな課題は、平成26年度から3年間続く新しい科研費プロジェクト研究「温度可変AFM法による減・昇温条件での環境変動指標鉱物の結晶成長ナノスケール解析」で引き継ぐことになりました。

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