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生物地理境界に位置する島嶼への昆虫類の侵入プロセスの比較研究 |
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細谷 忠嗣 |
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屋久島と奄美大島の間に位置するトカラ列島は,動物地理区分の旧北区と東洋区の境界に位置しており,悪石島と小宝島の間に生物地理境界である渡瀬線が引かれ,動物相が大きく変化する地域である。本列島は南北約160kmに島々が点在する弧状列島であり,本列島に分布する生物は,主に飛翔による飛来や海流に流された漂流物に乗ってくる漂流分散などの何らかの海を越える分散により侵入してきたものと考えられる。本研究では,漂流分散によって本列島に侵入したと考えられる甲虫類を分析することにより,生物地理境界域という生物地理学上重要な地域における昆虫類の海を越えた侵入・分布拡大プロセス,特に漂流分散による島嶼への侵入・分布拡散について調査した。
2008年から行っているトカラ列島とその周辺地域のコガネムシ上科甲虫を中心とした昆虫類の生物地理学的調査で採集した標本のうち,クワガタムシ科についてDNA分析を行うとともに,糞虫類について分布パターンの解析を行った。
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クワガタムシ科のDNA分析は,種によって本列島への侵入方向が異なり,コクワガタは北から,リュウキュウノコギリクワガタとヒラタクワガタは南からと明確に一方向であり,それは数十万〜数万年以内の新しい時代に起因することを示した(図1:リュウキュウノコギリクワガタの例)。
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糞虫類についての分布パターン解析は,本列島の種構成が奄美諸島と類似しており,特に本列島の南部(渡瀬線以南)が奄美諸島の影響を強く受けていることを示した(図2)。糞虫類については,南からの侵入の影響が強く,その影響は本列島の北部まで及んでいることが明らかとなった。 |
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