活動報告

2015年8月1日(土)~3日(月)【プログラム授業】生物学の視点からアジアの環境問題を考える
 修士2年のプログラム生を対象として、8月1日から3日までの3日間にわたって沖縄を訪問し、外来種の問題と環境保全に関する授業を実施しました。

 

~マングースと沖縄固有種~
 現地調査と環境省ウフギー自然館訪問


 イダジイを中心とする自然度の高い照葉樹林が広がる沖縄北部の山原(やんばる)の森においては、多様性・特異性に富んだ特有の生物相が見られます。私たちはヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ケナガネズミなどこの場所にしかいない生き物が多数生息している沖縄県北部山原(やんばる)地方へ視察に行きました。


 約500万年前に大陸の一部であった琉球列島は大陸と離れる際にさまざまな生き物が島々に閉じ込められたといわれています。その生き物たちが何万年もの長い年月をかけ外敵から脅かされること無く固有な種へと進化していきました。これが固有種と呼ばれるある特定の地域だけに分布している生き物(ヤンバルクイナ、オキナワトゲネズミ、イシカワガエルなど)です。

 

 沖縄県が抱える自然環境保護の問題として、この希少価値の高い固有種が近年あらゆる要因によって減少傾向にあるということが挙げられました。その要因の一つが外来種のマングースや、人間によって勝手に捨てられた犬や猫による捕食です。私たちはこの中でも特にマングースついて着目し、国頭村、大宜味村、東村を始めとする沖縄北部やんばるのマングース対策について視察を行いました。

 約100年前に沖縄南部で放された約17匹のマングースは現在は3万頭と沖縄北部のやんばる地区まで生息域を拡大しています。天敵も無く繁殖力の強いマングースは南部の街中だけでなく、多くのえさを求めて沖縄北部の亜熱帯の豊かな森にまで生殖地域を拡大してきました。そして、この貴重な固有種達を捕食してきたのです。そこで環境省はこれ以上沖縄県内でマングースを北上させぬよう、大宜味村塩屋から東村福地ダムにかけてと同じく塩屋から平良までにマングース北上防止柵を設置しました。柵が設置できない場所については沖縄県と協力しあらゆるワナを仕掛けることでマングース駆除に取り組んできました。

 

 このマングース用のワナは沖縄北部でおよそ3万ヶ所設置されています。私たちは実際にマングース北上防止柵とワナの場所に行き、どのくらいの間隔でワナが仕掛けられているかを調査しました。すると各ワナには全て地元の「やんばるマングースバスターズ」の方々により目印としてピンクのリボンがつけられていることがわかりました。

 「やんばるマングースバスターズ」は2008年に環境省から20名、沖縄県から20名の約40名で構成されるマングース防除事業に取り組む団体です。環境省ウフギー自然館の山本さんのお話によるとその40名のバスターズの方々は2人1組となり毎週ルートを打ち合わせしながら、推定1500kmの道無き道をマングース駆除のために歩きまわります。ワナを仕掛ける場所も、無人カメラによるモニタリングから生息する場所を推測したり、マングース探索犬ともペアを組むなど、様々な道具や方法を組み合わせて防除活動に取り組まれていることがわかりました。さらには残っているマングースだけではなく在来種の生息状況なども自動撮影カメラを使ってモニタリングするなど、効果的な活動もなされていました。

 


 この結果、私たちがお話を聞いた時点ではやんばる北部を8つの地域に分けたうち最北の3地域にはほとんどマングースが見られなくなったとのことでした。「あと1割です。しかしその1割の駆除が難しいのです。」と山本さんは話します。山の中では毒蛇のハブに遭遇するなどいろいろな危険の多い中、この結果はマングースバスターズの方々の日々の観察や、長年の経験から生まれる勘や洞察力、さらには毎日あげられる膨大なデータの蓄積とその分析によっての成果であると私たちは強く心に感じました。

 


~貴重な生き物を守る為に~
 日本工営株式会社 沖縄事務所課長 富坂峰人さんの案内による国道周辺の調査


 ヤンバルクイナ、イボイモリを始めとする沖縄北部の希少生物を守りながら、国道建設などを進めていくなど様々な取り組みをされている日本工営沖縄事務所の方々の引率の下、沖縄県北部の国道の視察に行きました。
 国定天然記念物ヤンバルクイナのように飛ぶことができない鳥や、同じく国定天然記念物のケナガネズミなどがえさを求めて道路に出てくるものの、うっかり自動車に引かれて死んでしまうという「ロードキル」がこちらでは大きな問題となっています。

 

 この北部国道事務所ではヤンバルクイナのロードキル対策として、クイナフェンス(道路進入防止対策)及びクイナトンネル(道路下横断路)を設置して「ヤンバルクイナと自動車が出会わない道路構造」の技術確立に取り組まれていました。とくにフェンスはホームセンターで購入した網と結束バンドを用いるなど低コストでできることを実施され、道路に出たヤンバルクイナがまた草むらに入ることができるようその大きさに切り抜いて入り口を作り、交差点ではある一定の角度でフェンスを曲げることで再度道路に出ることが無いよう工夫を重ねられていることなどに動物を護る熱い気持ちが感じられました。

 とくにフェンスはホームセンターで購入した網と結束バンドを用いるなど低コストでできることを実施され、道路に出たヤンバルクイナがまた草むらに入ることができるようその大きさに切り抜いて入り口を作り、交差点ではある一定の角度でフェンスを曲げることで再度道路に出ることが無いよう工夫を重ねられていることなどに動物を護る熱い気持ちが感じられました。

 

 さらに産卵のために海に向かうオカガ二、オカヤドカリ、など山と海を行き来する主な生き物にも「ロードキル」の問題があります。特に国指定天然記念物オカヤドカリなどは南西諸島など山林にすむ陸生のヤドカリです。このヤドカリやカニの為にも、スロープ型側溝、護岸スリット、カニさんトンネルなど小動物を守る工夫がなされていました。特に護岸スリットはカニが横歩きで産卵時に沢から海まで行けるようカニの甲幅にあわせて道が整備されていること、さらに護岸が高すぎて砂浜にいけないカニのためにスリットをスロープ状に作ってあげていることに私たちは驚きました。カニのためのトンネルには私たちも実際に入り、入り口のカニのための斜面(スロープ型側溝)、道路進入防止型側溝なども見学しましたが、とにかく細かくカニの生態を調査した上で、全てのものが設計されていることがわかりました。沖縄ならではの水辺の小動物オカガ二やオカヤドカリの産卵から生育までがとても大切に考えられ、自然環境はここでも多くの手が入り保全されていることを目の当たりにしました。

 

 ここで私たちは58号線を国頭村から大宜味村へ下りながら、珍しい道路標識を確認することができました。もちろんかにの標識です。(謝名城地区、座津武地区調査)

 


~赤土等流出問題とかんがい排水事業~
 羽地大川地区 古宇利島を調査

 

 沖縄のように南西島地区特有の環境問題として、降雨時に農地や荒廃地から微細土粒子を多く含む濁水が流れ出し河川や美しい沿岸域を汚染するという深刻な環境問題があります。

 この赤土問題も沖縄独特の美しさを保つ河川や、さんご礁の生き物たちに大きな影響を与えていることから、農地の横に沈砂地として水を溜める場所をつくりそこに植物を植えるという低コストで行える改良を農家の方々に提案していくことが実現できたと伺いました。これは普通の沈砂地より多くの水を溜めることができ、さらには水生昆虫などが成育するおかげで特別天然記念物のカンムリワシや沖縄で重要種となるタイワンアシカキという水田雑草も保全できるというあらゆるメリットを持つそうです。このように日本工営沖縄事務所の事業は一つの問題の解決から多くの成果物が出るような開発・研究を手がけ、環境保護の一つとして大きな成果が生み出されていました。

 


~大学院大学整備事業と環境アセスメント~
 沖縄科学技術大学院大学(OIST)を訪問

 

 

 沖縄県に世界最高水準の自然科学系の大学院大学を建設する計画にあたり沖縄県北部に位置する恩納村はその土地を2003年に提供しました。この豊かな自然環境が残る地域で高い環境配慮が求められる整備事業は今から12年前より行われていたことになります。大学院大学の建設地を恩納村と決定した同年12月から日本工営(株)により環境調査が行われ、4年後2007年から工事が開始されました。ここでは重要種が多く生育・生息する沢を改変しないことを原則とし、それを受けて環境面から避けるべき地点やエリアの提言など、できる限り環境影響を「回避」する計画がなされました。実際にこの場所を訪れると、確かに山から海に向かう「谷」を壊さないよう、建物が斜面に沿うようにたてられ、つり橋でつなげられていることがわかります。さらには、沖縄県指定の天然記念物であるイボイモリの保全のため工事中から近くの沢に人工繁殖地を作り、産卵から孵化、生育までを管理するなど希少生物保全の取り組みはここでもしっかりなされていました。
 私たちは実際にここで生育している野生のイボイモリを観察することができました。


※沖縄県指定天然記念物イボイモリ(野生)

 


~沖縄研修を終えて プログラム生の声~

 

 

Aさん
 It was a fantastic experience and we went to many interesting places in Okinawa.
 Led by a very active and experienced professor, we learned many things about Okinawa not only at some set places but also on the road. We had a few mini lectures and observations, such as looking on how the people working at Environment Bureau take measure to eradicate alien species in order to protect local endangered animals, helped us to know the importance of ecological/biological balance. Apart from the academic side, we got a chance to taste some Okinawan food too.
 Anyway, this journey combined learning and sightseeing seamlessly and was filled with joy and knowledge.

Bさん
 現場の方に直接話をきき、案内していただいた点がとてもよかったです。2泊3日でしたが、内容がとても濃かったので、あっという間でした。ヤンバルクイナetcの保護施設や実際の活動現場、最先端の大学を見学できてよかったです。

Cさん
 荒谷先生のお話を聞きながら、実際に現地で散策したり、現地で働いている(ウフギー自然館、日本工営株式会社)人の生のお話を聞くことができました。
 これは料理に例えるとするなら、調理師から材料の説明を受けながら、実際にその食材を触ったり味わったりできる体験に似ていると思います。
 このように教室の中で人の体験談や感想を聞くだけでなく、自分で現地に行って直接感じてみるという経験はとても大事なことだと思いました。

 

Dさん
 今まで座学で受けてきた授業内容を、今回の沖縄では実際に見ることができたものもありました。座学で受けていなければ”ふーん”という程度のものだったと思いますが、知識をつけていたことで”なるほど”と思うことができました。知識をたくわえることの必要性を感じたと同時に、自分の目で確かめるような活動の授業の重要性も改めて感じました。
 沖縄の中でも今まで知らなかった”沖縄”に出会えた点が最も印象的でした。キレイな海や戦争、また特別な食文化についてのイメージしかありませんでしたが、ヤンバルに行くことができたことで、同じ沖縄でも異なる視点を持つことができました。実際に活動を目でみることができた点ではとても感謝しています。紙媒体では伝わらないこと、イメージがつかないことも、実際に人に会ったり、活動をみたりすることで理解が深まりました。

Eさん
 いろいろな現場に行き、実際に見て、先生の説明を聞き、実感できました。やんばるのいろんな貴重な動物を紹介、環境省や地元の人々も動物保護にすごく力を入れて、すごく感心しました。私の実家(中国)の近隣でもそういう野生動物が多くいますが、保護措置はあまりされていません。こちらの現場の人々の姿、努力をもっと学びたいと思います。あとは立派なOISTを見学し、すごく感心しました。自分もそちらで働いている人のような国際的な人材になりたいです。

 

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