活動報告

2019年1月24日(木)【プログラム授業】理系OBの話を聞く会「研究と実社会のつなぎ方~博物館の取り組み」
1月24日に、プログラムの掲げる「描く力」の涵養を目的として、地球社会統合科学府の前身である比較社会文化学府の修了生で理系OBの3名の先生方をお招きし、座談会「研究と実社会のつなぎ方~博物館の取り組み」を開催しました。

1月24日に、プログラムの掲げる「描く力」の涵養を目的として、地球社会統合科学府の前身である比較社会文化学府の修了生で理系OBの3名の先生方をお招きし、座談会「研究と実社会のつなぎ方~博物館の取り組み」を開催しました。本セミナーは昨年度の文系OBの方々を囲む会(2018年1月19-20日)の続編として企画されたものです。

最初の発表者の井手竜也先生(国立科学博物館)には「小さな虫が繋いでくれた今までとこれから」と題して、博物館での業務内容や高校生のころからポスドク時代に至るまでのご経験を中心にご講演いただきました。

先生は高校の生物部に所属していたときに、自分の想像以上に身近に沢山の昆虫が存在していることに気が付いて以来、ずっと昆虫に興味を持って研究に取り組まれてきたそうです。

井手先生がご所属されている国立科学博物館には「調査・研究」、「資料の収集保管」、「展示・学習支援」という3つの主要事業があり、現在50名以上の研究員が一般職員や技能職員と連携しながらこれらの実践に取り組んでいるというお話でした。研究に関して言えば、近年ではとくに、専門分野や研究グループを横断したプロジェクト研究(生物分野ではインベントリー調査など)が実施されていますが、比文在籍時にさまざまな分野の人々と議論を交わした経験や、博論研究時に習得した分析技術が大いに役立っていると仰っていました。しかしながらこれら3つの主要事業を1人の研究者が並行して行うのは容易なことではなく、どこに自分の軸を置いて活躍するのか考えることも重要であるとお話しされていました。

また、博物館は市井の人々へ専門的な知識を還元できる貴重な場であり、学生時代やポスドク時代に培ってきた知識や経験を大いに活かすことができる場所であると仰っていたのがとても印象に残りました。

 

               

 

2番目の発表者の桝永一宏先生(琵琶湖博物館)には「研究と実社会のつなぎ方~博物館の取り組み」と題して、昆虫を研究することのおもしろさや博物館のリニューアル時に工夫されたことなどに関してご講演いただきました。

桝永先生は六本松の生物学教室に在籍されていた時代から「アシナガバエ」の研究に取り組まれて来られました。このアシナガバエという双翅目の一属は岩礁・干潟・渓流などに棲息するハエの仲間であり、双翅目のなかでも、もともと陸生種であったものが海洋環境に適用したというような、類例がほとんどない珍しい種であるとのことで、生物系統の進化を考える上でとても面白い研究素材だそうです。

琵琶湖博物館に就職されてからは同属の遺伝系統樹作成を目的としたサンプル採取を行うために世界中を飛び回る傍らで、博物館のリニューアルに関するお仕事にも取り組まれているということで、多くの市民の方々にいかに研究の面白さを伝えるためにどのような工夫をなされたのか(展示室における標本の配置の工夫やバリアフリー対応などについて)お話いただきました。

博物館就職時には自身の専門分野の狭い領域の知識しかなくても仕方がないけれど、就職してから市民の方々と一緒に勉強していくことが何よりも大切で、学生時代にも比文の環境を活かして色々な分野の人と関わっておくべきだと仰っていたのが印象に残りました。

 

               

 

 

最後の発表者の池上直樹先生(御船町恐竜博物館)には「なぜ恐竜を掘るのか?~小規模博物館の挑戦と学芸員の日常~」と題して、博物館が学習機会の提供に果たす役割や学芸員の専門的な業務などについてお話いただきました。

 池上先生は卒業研究の調査中に日本初の肉食恐竜の化石を発見されて以来、同恐竜博物館の設置と運営に長く関わって来られましたが、どの博物館にも共通する博物館の社会に対する役割というものは、調査研究・資料収集・展示・教育の4つであり、これは知的好奇心を刺激すること・生涯学習意欲を喚起すること・利用者を惹きつけること・学習を支援することに対応するものと認識されていると仰っていました。

 また、化石を収集する博物館で必須の“化石クリーニング”という専門的な仕事について、欧米の博物館ではメジャーな存在だが、日本には未だに専門家がいないという問題の解決を目指して、米国モンタナ・ロッキー博物館と提携し、アメリカの試料を移送して、教育の一環として日本でクリーニングするという取り組みを行っているというお話もしていただきました。

“博物館のすべての活動は教育に収斂する”と言われるけれど、教育活動のみを重視するのではなく、全ての活動を学習機会として市民と共有する必要があると仰っていたのが非常に興味深く、研究と実社会をいかにして繋ぐかという問題を考える上でとても重要な視点であると感じました。

 

               

 

会の最後に行われた質疑応答の時間には、参加学生から「大学での研究者生活と博物館での研究者生活の違いやそのメリットとデメリットは何か?」、「博物館に来られる外国人の割合はどれくらいなのか?」などの質問が出され、それぞれの先生方にご回答いただきました。

今回の座談会では理系OBの先生方から実体験を踏まえたとても興味深く実践的なお話を伺うことができ、とても有意義な機会となったように思います。

 

               

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