紛争と国家建設 
戦後イラクの再建をめぐるポリティクス

明石書店(2013年3月)

イラク戦争後のイラクで政治対立が継続しているのはなぜか、国家建設が進展しないのはなぜか。本書では「アクター間の関係性」に着目してこれらの要因を探り、戦後イラクの紛争と国家建設、そしてそれをめぐるポリティクスを実証的かつ多角的に描き出そうとしました。

序章 イラクにおける紛争と国家建設
第一章 イラク戦争と戦後政治プロセス
第二章 民主化を主導する──シーア派宗教界の台頭
第三章 政党を作る──合従連衡のポリティクス
第四章 代表を選出する──選挙のポリティクス
第五章 治安を回復する──部族のポリティクス
第六章 財政を運営する──利権配分のポリティクス
終章 紛争と国家建設の諸相
 あとがき
 参照文献
 索引

第17回国際開発研究 大来賞を受賞いたしました



現代イラクのイスラーム主義運動

革命運動から政権党への軌跡

有斐閣(2011年12月)

京都大学に提出した博士論文を修正し、分量を大幅に圧縮したものです。2003年のイラク戦争後に、彗星のごとくイラク政治の中枢に上り詰めたイスラーム主義勢力。弾圧,亡命,分裂といった数々の苦難を乗り越え,政権党となったイラク・イスラーム主義運動の歴史的変容過程を、関係者へのインタビューや一次資料をもとに描き出した作品です。

序 章 現代イラクの政治変動とイスラーム主義運動
第1部  イスラーム主義運動の誕生と革命運動(1950~70年代)
 第1章 イラク国家の形成と変容するシーア派宗教界
 第2章 イラクにイスラーム国家を樹立せよ
 第3章 近代的イスラーム主義組織の形成と革命運動
第2部  亡命期のイスラーム主義運動とその分岐(1980年代)
 第4章 革命運動の失敗と亡命,そして分裂
 第5章 独裁政権を打倒せよ,革命政権を樹立せよ
 第6章 シーア派法学権威への個人的忠誠か,組織化された宗教界との協調か
第3部  ディアスポラ期のイスラーム主義運動と国内社会運動の相克(1990年代)
 第7章 イスラーム主義反体制派からイラク反体制派へ
 第8章 革命運動から社会運動へ
第4部  国家を運営するイスラーム主義運動(2003年4月~2009年8月)
 第9章 歴史的背景に裏づけられた政治対立が顕在化するとき
終 章 変容するイラク国家とイスラーム主義


「イスラーム国」の脅威とイラク

吉岡明子・山尾大 共編著

岩波書店(2014年12月)

2014年6月に突如としてイラク第二の都市モスルを制圧した「イスラーム国」。「イスラーム国」とはいったい何か。その背景にあるイラク政治はどんな問題を抱えているのか、シリア紛争はどのような影響を与えているのだろうか。本書は、「イスラーム国」そのものはもちろんのこと、「イスラーム国」が勢力を拡大した背景を理解するために、イラクの政治・経済、シリア紛争、イランの介入、「イスラーム国」と国際政治といった多角的な視点から論を展開したものです。各分野の第一線の研究者による論文集となっており、「イスラーム国」をめぐる現地の状況を可能な限り正確に、かつ包括的に理解するためには最適です。ぜひ手に取ってみてください。

序 「イスラーム」国はイラク戦争とシリア内戦で生まれた(酒井啓子)
第1章 マーリキー政権の光と影――イラク戦争から「イスラーム国」の進撃まで(山尾大)
第2章 隠された二つの「クーデタ」
       ――「イスラーム国」の進撃とアバーディー政権の成立を考える(山尾大)
第3章 クルディスタンとその係争地――「イスラーム国」が独立問題に与えた影響(吉岡明子)
第4章 揺らぐイラクの石油の支配(吉岡明子)
第5章 「イスラーム国」とシリア紛争(高岡豊)
第6章 「イスラーム国」とアルカーイダ
       ――液状化するサイクス・ピコ協定とカリフ国家の幻影(保坂修司)
第7章 シーア派イスラーム革命体制としてのイランの利害と介入の範囲(松永泰行)
第8章 「イスラーム国」が浮き彫りにする国際政治の闇(酒井啓子)
  あとがき(吉岡明子・山尾大)


出版社へのリンク

現代中東の国家・権力・政治
ロジャー・オーウェン著 山尾大・溝渕正季共訳

明石書店(2015年1月)

中東政治学・中東の現代政治史の古典/教科書です。中東地域に近代国家がどのように成立したのか、国家建設後に政治体制がいかに定着していったのかという点が構造的に議論されています。中東政治のダイナミズムを、ポスト・コロニアルな社会に共通する現象として、国際的な比較研究の俎上にのせた中東政治学・政治史の名著と言えるでしょう。

第I部 国家と国家建設
 序論 中東の国家
 第1章 帝国の終焉――現代中東諸国家の誕生
 第2章 アラブ世界における国家の力の拡大――一党支配体制
 第3章 アラブ世界における国家の力の拡大――家族支配とリビアの新たな選択
 第4章 アラブ民族主義――アラブの統一とアラブ諸国間関係
 第5章 第二次世界大戦以降のイスラエル、トルコ、イランの国家と政治
 第6章 1990年代における中東政治の再編
第II部 現代中東政治を理解するためのいくつかのテーマ
 第7章 経済再建のポリティクス
 第8章 政党と選挙――アラブ世界における民主主義の難題
 第9章 宗教復興のポリティクス
 第10章 政治のなかの軍、政治の外の軍
 第11章 非国家アクターの役割
第III部 九・一一の衝撃
 第12章 米国による中東再編の試み
 結論 21世紀初頭の中東

現代イラクを知るための60章
酒井啓子・吉岡明子・山尾大 共編著

明石書店(2013年3月)

2003年のイラク戦争から10年。そのイラクについて、政治や経済のみではなく、歴史や社会、文明や文化、農業にいたるまで、多面的にわかりやすく説明した一般向けの書籍です。

I 国の成り立ち――地誌と歴史
II 繰り返される戦争と苦難
III 建国から現在まで
IV文化と生活
V 社会の基層にあるもの
VI 統治機構
VII クルド民族の歩んだ道
VIII 石油に支えられた経済
IX 外交

تاريخ الاحزاب الاسلامية في العراق:التحول في حزب الدعوة
(1957~2009)
山尾大著 ファッラーフ・アサディー、マフムード・カイスィー訳

Bayt al-Hikma(2011年)

ダアワ党を中心とするイラクのイスラーム主義運動の歴史について、これまでの英語論文をまとめて加筆修正したもの。英語からアラビア語への翻訳は、イラク(バグダード)のナハレイン大学学長のファッラーフ・アサディー先生と、筆者が最も尊敬するイラク人研究者の1人である親日家のマフムード・カイスィー先生が担当してくださいました。







イラク戦争は民主主義をもたらしたのか

トビー・ドッジ著 山岡由美訳・山尾大解説

みすず書房(2014年7月)

イラク戦争(2003年)から2012年までのイラク政治について、極めてコンパクトに、要領よくまとめられた本であります。翻訳も非常に読みやすく、イラク戦争後の政治の流れを大まかに理解するためにはお勧めの一冊。初めて解説を書かせていただき、このような仕事がどれだけ難しいかがよく分かりました。ぜひ、拙著(『紛争と国家建設』)とあわせて読んでいただければ僥倖です。

序――未来の展望
第1章 暴力推進要因
第2章 反体制暴動から内戦へ――暴力の担い手たち
第3章 アメリカの政策と対暴動ドクトリンの復活
第4章 行政と軍事的能力の再建
第5章 エリート間の排他的な取り引きと新しい権威主義の高まり
第6章 攻守の逆転――中東におけるイラクの役割の変化
結論