森平雅彦・辻野裕紀・波潟剛・元兼正浩 編
ISBN 978-4-7985-0338-7
2022年8月
定価 4,800円(税別)
グローバル化の進展は、国家・地域間において相互理解を深める機会を提供する一方で、相互の摩擦や衝突を生み出す原因ともなっている。日韓関係も例外ではなく、大衆レベルでの往来が活発化する一方で、双方の社会が内包する価値観の差異にも起因する壁が、むしろ顕在化した面もある。そのような現実を乗り越えるためには、過去そして現在の多様な現場で、様々な課題を抱えるなか、むしろ不協和音が存在するからこそ、交流と共生への努力が不断に続けられてきたことに注目する必要がある――以上が本書を貫く主題である。
第1部「つながる、交わる――対馬海峡沿岸社会における中近世の現場――」では、近代国家の線引きが生まれる以前の相互交流について、中世(15・16世紀)の事象を中心に論じる。そこでは対馬海峡沿岸の生活者が交流の主な担い手となり、地域の論理がときに国家の論理を凌駕する状況すら生まれた。具体的には、朝鮮半島沿岸における日本人海民の漁撈活動や、そこに形成された日本人町、海域の交流現場に対する双方の中央社会の目線、ヒトやモノの行き来を物理的に支えた船舶の動きについてみていく。
第2部「出会う、伝え合う――学びの現場――」では、現代の教育交流に注目し、在日コリアンの民族教育のために設置された韓国研究院が、広く韓国文化の発信窓口・交流窓口として役割を変化させる様相、韓国政府が進める韓国語海外普及事業に関する「現地主義」の視点からの考察、日韓の大学生が相互訪問を通じて協働学習に取り組んだアジア太平洋カレッジの試みを紹介する。
第3部「ことばを超える、国を越える――相互理解の現場――」では、言論・表現をめぐる問題を論じる。具体的には、ヘイトスピーチに関する当事者にして法曹人という立場からのメッセージ、在日コリアン作家の文学作品から得られる「気づき」、中国朝鮮族の映画監督チャン・リュルの国・民族の枠を越えた作品世界、フランスで活躍する韓国人作家グカ・ハンの「母語ではない言語」による創作がテーマとなるが、ここでは「越境」がキーワードとなる。