九州大学大学院 地球社会統合科学府 Graduate School of Integrated Sciences for Global Society 比較社会文化研究院 Faculty of Social and Cultural Studies

学府について

新任教員紹介

人間世界の探究

阿部 哲

社会的多様性共存コース 地球社会統合科学府
文化空間部門 文化表象講座 比較社会文化研究院

2020年6月に比較社会文化研究院に着任しました阿部哲です。

私の専門は文化人類学で、イランを中心に中東・アジア地域における近代化に関する研究を行ってきました。学部時代に天文学を専攻していた私が、人類学を学び始めた背景には、米国での留学体験が大きく関係しています。私が学部から博士課程までを過ごした米国・アリゾナ大学は、国内外から学生が集う総合学府で、キャンパスは異なる文化背景を持った学生・教職員で溢れていました。このキャンパスで学生生活を送るうちに、それまで見たことや想像したこともなかった人間模様に出会い、地球外で生起する現象を学問の対象とする天文学よりも、より身近に展開する色彩豊かな人間世界を探求してみたいと思うようになりました。

そのような心的変化の時期と9.11同時多発テロとが偶然重なり、自分の興味関心が中東地域に大きく傾いていき、とりわけイラン(イランの魅力については後段で記述)についての人類学研究を行おうと決心しました。専攻を変更することへの迷いもありましたが、異文化理解を深めたいと思っていた私にとって、人類学は自分が考えていた以上に魅力的な学問として映るようになり、自分の正直な思いを最優先することにしました。人類学入門の授業で、20世紀を代表する人類学者の一人であるマリノフスキーのトロブリアイランド諸島における足かけ2年に及ぶフィールド調査をもとに書き上げられた民族誌や、ギアツによるバリ島における闘鶏をめぐる解釈議論などを読んでいると、実際に自分が現地に住み、「異文化」に触れ、理解を深めていくような感覚に陥り、人類学への探究心に火がつきました。

院生時代は、従来の人類学において前提とされてきた種々の概念をより批判的に検討し相対化することを学び、社会理論についてさらに研鑽を重ねました。私が後期博士課程を開始した2005年秋学期に、当時、着任したばかりの、後に私の指導教官となるBrian Silverstein先生と共に、購入したばかりの真新しい『Discipline and Punish』(フーコー著)を精読しながら、知的興味を掻き立てられたことは特に印象に残っており、フーコーの権力論はその後の自身の研究における理論基盤となっています。

博士論文では、イランにおける環境問題について調査研究を行いました。現在イランでは、環境問題の解決に向けて、科学技術の導入が加速し、科学を介して環境分野の知識化、客体化が進められています。この流れと並行して、イスラームを国教とするイランでは、イスラーム的見地からも環境問題に対する解決案が提示され、科学知と宗教が交錯しながら環境分野を展開していくその様相を検証しました。このような点を踏まえ、現在は、研究対象分野と地域を広げ、重点的にイスラーム(広くは宗教)伝統と科学知との間で現出する事象に関する研究を行なっています。

また人類学と同様に、私の研究調査地であるイランにも特別な思い入れがあります。私が初めてイランを訪れたのが2004年7月。首都テヘランのメへラーバード国際空港に到着したのは現地時間で午前1時30分でした。初めて訪れる「異国」への到着が深夜となり、期待よりも不安の方が大きかったと記憶しています。閑散とした雰囲気の中で物寂しい入国になると思い込んでいましたが、到着ゲートで目に飛び込んできたのは、深夜にも関わらず、花束を手に家族や友人を笑顔で待ち受けていた大勢の人たちでした。日本や米国では遭遇したことのなかったこのような光景に、良い意味で驚かされ、今でも鮮明に脳裏に残っています。今振り返ると、その後、自らが体感することとなった、詩心に溢れ、情熱的で、プライドが高く、時に感傷的で、そしてまた、世話好きでお節介なイラン人の多くの魅力がその光景に凝縮されていたように思います。

これまで私は人類学(研究)を通して、様々な人たちに縁し、素晴らしい人間関係に恵まれる中で、色彩豊かな人間世界を探究することができました。私のこれまでの研究教育経験を皆さんの地球社会統合科学府での学びへ還元していけることを楽しみにしています。

 

担当科目:地球社会統合科学 (Integrated sciences for global society)