九州大学大学院 地球社会統合科学府 Graduate School of Integrated Sciences for Global Society 比較社会文化研究院 Faculty of Social and Cultural Studies

学府について

新任教員紹介

私と地球社会と学際性

横森大輔

言語・メディア・コミュニケーションコース 言語文化研究院 

このたび地球社会統合科学府の言語・メディア・コミュニケーションコースに着任いたしました、横森大輔と申します。

「地球社会統合科学府」。地球、社会、統合、とスケールの大きな言葉が並ぶ、なんともインパクトのある名称です。初めて聞いた人はつい聞き返してしまうような、珍しい名前だと言ってよいでしょう。しかし、この地球社会統合科学府、私にとっては十分に親しみを感じる名前でもあります。

私は2014年に言語文化研究院に着任し、主に基幹教育の英語科目を担当してきました。言文には地球社会と兼任の先生方が何人もいらっしゃるので何かとこちらの様子を伝え聞いていましたし、地球社会の院生の皆さんには毎学期のように英語科目のTAとしてお世話になっていました。こういった接点のおかげもあり、数名の院生とは定期的に研究の話をしたり一緒に研究会をする機会にも恵まれてきました。そういう意味で、私にとって本学府はずっと身近な存在でした。

本学府に親近感を覚える理由は、もう一つあります。私は、京都大学の「人間・環境学研究科」という大学院で修士・博士課程を過ごしました。その前は同じく京都大学の「総合人間学部」という学部に通っていました。それぞれの組織名にはそれぞれの背景があるので単純には結びつけられないと思いますが、どうも自分はスケールの大きい言葉を使った、少し長めの名称の組織に縁があるようです。

高校時代、進路を考える時期になって「大学では心理学をやろう」と決めました。人の心は何に左右されるのか?人の行動はどう決まるのか?そんなことに漠然とした興味があったような気がします。いや、正確に言うと、心理学というものが(というか学問一般が)どんなものかよくわかっていませんでしたし、自分のやりたいことがうまく言語化できなかったために、心理学という比較的わかりやすく思えた「看板」を目標にしてみた、というのが実際かと思います。こんな調子であやふやなスタンスだったせいもあってか、私は高校生当時から、学際性というものに強く惹かれていました。人間の心にアプローチするにしてもできるだけ学際的に、いろいろな学問分野の「合わせ技」でやってみるという可能性に魅力を感じていたのです。

入学した総合人間学部では、当初の希望通り、心理学を中心としたコースである「人間情報論分野」に配属されました。ただ、いくつか授業を履修するうちに、心そのものについて探究するよりも、もう少し輪郭がはっきりした、具体的な素材を扱う方が自分には合っているのではないかと思うようになりました。幸い、人間情報論分野には心理学の先生だけでなく2名の言語学の先生も所属されており、3年次からはその先生方のゼミに参加することができました。以来、言語研究(特に、言語の「外側」に脇見しがちなタイプの研究)の世界に魅了され、「言葉のちょっとした形式の違いがコミュニケーションにどのような違いをもたらすか」そして「言葉の形式上の特徴はコミュニケーションのどのような特徴に動機づけられているのか」という2つの問いを心に抱えて研究の道を(おぼつかない足取りで)歩み始めたのです。

 大学院で過ごす内にわかったのは、上記のような問いに取り組むには実際の会話データを観察する必要があるということ、そして会話データを理解するには社会学由来の研究分野である「会話分析」のアプローチが有力であるということでした。そこから会話分析と言語学の融合領域である「相互行為言語学」の実践を志し、今日に至っています。会話分析とその学際性については、院生時代からの仲間と一緒に編集・出版した『会話分析の広がり』(ひつじ書房)をご覧ください。

博士3年次に、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校に1年だけ留学する機会に恵まれました。そこでお世話になった会話分析研究者にGene Lerner先生という方がいます。彼がある書籍の序章に記している次の一節(学生時代に会話分析の創始者Harvey Sacksと出会った際に受け取ったメッセージとして紹介されているもの)は、研究者としての私の指針になっています。「どんなことでも可能だ。どう進むべきか、どう進んではいけないか、あらかじめ決められてなんかいない。君とデータの間には何も無いんだ」。既存の学問分野から自由になること、そして目の前のデータに真摯に向き合うこと。これらの大切さは、地球社会という学際的な場に集った院生の皆さんにこそ胸を張って伝えたいことです。楽しみにしています。よろしくお願いします。


プロフィール
担当科目:言語コミュニケーション学B(相互行為言語学)、言語・メディア・コミュニケーション論A、総合演習(言語・メディア・コミュニケーションコース)A