研究内容

私たちの研究室では、幅広い分類群を対象に、分類、系統、進化、生態といったさまざまな視点から生物多様性の解明に取り組んでいます。現在、スタッフ6名と学術研究員、大学院生で研究をおこなっていますが、それぞれが扱っている生物種、研究テーマも多種多様です。ここでは主にスタッフが行なっている研究についてご紹介します。

そのほかの研究については、論文リストをご参照ください。

昆虫の分類・生態、外来種の管理(阿部)

伊都キャンパスで発見されたタマバチの2新種(ともに体長は約2mm) (写真:井手竜也)左:Synergus itoensis Abe, Ide et Wachi
右:Plagiotrochus masudai Ide, Wachi et Abe

タマバチ上科の系統・分類学ならびに外来昆虫の生態と防除に関する研究を行っています。伊都キャンパスでアラカシに虫こぶを作るタマバチの2新種(右写真)を発見し、記載・命名を行いました。コナラ属のコナラ亜属に虫こぶを作るタマバチは約1,000種が知られていますが、同属のアカガシ亜属からは世界初記録です。

甲虫類の自然史 (荒谷)

自ら切り落としたソラマメの若い茎の切り口から流れ出る汁を吸うパプアキンイロクワガタ(写真:荒谷邦雄)

甲虫類は種数が多く、形態や行動、生態の面でも極めて多様性に富んでいます。この甲虫類の多様性の秘密に迫るべく、系統分類学的研究を主軸とした基礎研究から実践的な応用研究に至る総合的な自然史科学的研究を展開してきました。ラボワークに加え、世界6大陸30カ国以上に及ぶ様々な地域でフィールドワークも実施しています。

ヤドリバエの寄生戦略の進化(舘)

花にくるオオズハリバエ属の一種(撮影 舘亜古)

寄生性ヤドリバエは幼虫期に他の昆虫の内部に寄生します。その寄主は、チョウやガの幼虫をはじめ、カメムシ類、甲虫類、バッタ類やカマキリ類などさまざまです。多様な生態をもつこれら昆虫類に寄生するため、ヤドリバエの雌は様々な戦略を駆使しています。比較形態学による分類学的研究、及び分子系統学的研究からヤドリバエの寄生戦略の進化の解明に取り組んでいます。

樹木の進化、遺伝的多様性の維持機構(楠見)

ミシシッピー沿岸に広がるヌマスギの森 (撮影 楠見淳子)

生物の進化機構を理解することを目的に遺伝子レベルでの進化や遺伝的多様性の維持機構の解明に取り組んでいます。アメリカ南東部の湿地帯に分布する針葉樹の一種であるヌマスギ(右写真)の集団構造、集団分化の歴史の推定を行うほか、多様な水環境適応に関わる遺伝子の探索と分子レベルの進化を明らかにし、本種に生じた進化のプロセスを遺伝情報から辿ろうとしています。また、イチジクーイチジクコバチ、淡水性刺胞動物ヒドラー緑藻の共進化に関する研究も行っています。

昆虫類のライフサイクルの進化・維持機構と表現型可塑性 (小川)

生物の形質(形態)はその生物(個体)が持つ遺伝情報のみで決定されず、発生時の環境要因に応じて可塑的に変化することがあります。これは表現型可塑性と呼ばれ(West-Eberhard 2003)、様々な生物の環境適応能力の根源となっています(Fox et al., 2019)。地球上の生物は変動する環境に対応するため、表現型可塑性を基盤とした巧妙な適応戦略を進化させています。寿命が短く、体サイズも小さい昆虫類において生育や繁殖に適した季節や不適な季節の到来を告げるシグナルを見極め迅速に応答するという事は特に重要です。私たちの研究室では、アブラムシやチョウなどを研究材料に表現型可塑性という切り口から陸上生態系の覇者である昆虫の適応戦略や生活史の進化・多様化プロセスの解明に挑んでいます。

寄生蜂の種多様性の解明(松尾)

チャバネアオカメムシ卵の上にとまっているTrissolcus plautiae(撮影 松尾和典)

寄生蜂は名前のとおり、他の昆虫に寄生する蜂です。メス成虫は寄主となる昆虫に自らの卵を産み付け、ふ化した寄生蜂幼虫は寄主昆虫を食べて成長します。1mmほどの小さな蜂ですが、全昆虫の約20%の種数を占めるともいわれ、生物多様性を研究する上で重要な分類群です。また、農業害虫の防除に活用されている種もいます。私はこのような寄生蜂を対象に、分類学的研究から応用利用まで、包括的に研究を進めています。