九州大学大学院 地球社会統合科学府 Graduate School of Integrated Sciences for Global Society

卒業生の方

新任教員紹介

地球化学と考古学の融合

仙田 量子

包括的地球科学コース 比較社会文化研究院 アジア埋蔵文化財研究センター

マントルと地殻の境界層付近でのサンプリング@オマーン

はじめまして。私は、平成29年2月に九州大学大学院比較社会文化研究院に赴任いたしました。大学で働くことも、九州を含む西日本で生活することも初めてです。皆さんと過ごすことを楽しみにしております。

私の研究分野は、地球科学という学問分野の中の一つで、実験などを行って様々なものの化学組成を調べ、その情報から物質の起源や履歴などを推定する地球化学です。分野的には、岩石から宇宙塵や海水など様々な物質がターゲットになりますが、私は特に、岩石中の微量元素や白金族元素とオスミウム(Os)同位体比を用いて、地球の内部情報の推定や火山の歴史などについての研究を行っています。
 地球の内部は、表層から地殻、マントル、核(コア)に分かれています。地殻の厚さは陸上で30~60km、海底では6~20km程度と言われていますが、人類はその下のマントルまで到達したことがありません。1969年には、地球から38万km離れた月にアポロ11号が着陸し、人類が始めて月に到達しました。また、2003年に打ち上げられた「はやぶさ」は、地球の重力圏外に存在する小惑星イトカワに到達、試料採取を行って2010年に地球に帰還しています。これらの距離に比べると、マントルはとても近くにみえますが、実際には非常に遠い存在と言えます。

清水港停泊中の地球深部探査船「ちきゅう」。乗船前に。

マントルについての研究を行うために、平成29年7月後半から8月後半にかけて、私は地球深部探査船「ちきゅう」に乗船しています。この「ちきゅう」上に世界中の様々な国から研究者が集まり、オマーンで採取された掘削コア試料の解析を行っています。オマーンには、海底を形成する海洋地殻とその直下のマントルが陸上に乗り上げたオフィオライトと言われる地質現象が陸上で観察できます。昨年の冬からこのオフィオライトで掘削が行われ、新鮮な海洋地殻とその下のマントルの岩石を得て研究を行う国際プロジェクトが進められており、今回の「ちきゅう」での分析はその一環です。 掘削コア試料の分析として具体的には、まずは円柱状の試料の表面を観察し、きれいで新鮮な岩石と風化が進んでいる岩石あるいは脈状に入っている岩石の場所や状況を記録します。次に、「ちきゅう」上に搭載されているCTスキャナーで密度構造の違いから、内部構造を観察・データを取ります。 そして円柱コア試料を半円状に二つにカットし、一つはアーカイブとして保存、もう一つは実際の分析に使用します。
 船上では、岩石を薄く磨いて岩石を構成する鉱物を観察する薄片記載、密度や速度構造を調べる物理組成解析、一部を粉にして、X線を使用した元素分析や鉱物組成分析、岩石中に含まれている磁気の分析等々、様々な分析が行われています。広い分野の研究者が一堂に会して、これらの分析を合宿しながら行っています。私はその中で、粉になった試料から、ICP-MSという比較社会文化学府にもある装置を用いて、微量元素分析を行っています。初めて船上で行う分析手法ですので、揺れる船の上でも確実に分析できる方法を試行錯誤しながら、確立しようとしているところです。
 船の生活は、12時間交替でシフトが組まれています。私は夜12時から昼12時までの間作業をするシフトに入り、乗船当初は昼に寝て夜起きることが大変でした。食事は6時間おきに用意され、様々な出身や宗教の方々の存在を踏まえて、バイキング形式で食材や調理法などもバリエーション豊かに提供されています。食後にはケーキやアイスも好きなだけ取ることができます。オフの時間帯には、ジムに行って運動したり、娯楽室にはダーツや卓球台もあります。私は、基本的に実験室に籠もりきりですので、オフの時間には同じシフトの研究者と誘い合って、のんびりと卓球で体を動かしています。とは言え、残業も多く、なかなかゆっくりオフを過ごすことはまだできていません。ですが、マントルに関する様々な研究者と議論ができるこの機会を楽しんでいます。

また、九州大学に赴任してから、研究の幅が広がってきています。私は、前述の通り、地質学試料の様々な元素分析、同位体比分析データを用いた起源・履歴解析、年代決定などを行ってきた地球化学者ですが、所属は九州大学アジア埋蔵文化財センターです。アジア埋蔵文化財センターでは、学際融合研究が活発に行われていますので、私は、埋蔵文化財の研究に地球科学的なさまざまな視点を加えることで貢献できたらと考えています。例えば、実現のメドがきちんと立っているわけではありませんが、これまで元素存在度分析と鉛同位体比という2次元での解析が主に行われていた青銅器や鉄器の原産地研究に、鉄や銅などの重元素安定同位体比分析や炭素・窒素などの軽元素安定同位体比分析などの多次元の視点を加えることを考えています。分析の種類が増えることは、データが得られるまでの時間と資料をより多く消費してしまう欠点もある反面、これまでよりも解像度が高く精密な分析が可能となる事は明らかであり、より多くの新しい知見を得られることが期待されます。さらに多様なバックグラウンドをお持ちの考古学の先生方と分析で得られたデータを議論し活用できるのは、九州大学ならではの大きな利点です。九州大学という考古学の一大拠点に、ここでしかできない分析および考古学視点と地球科学視点を合わせた分析データの解析によって、新しい知見をもたらすことができれば、望外の喜びとなります。どうぞよろしくお願いいたします。


プロフィール
担当科目:地球物質化学、総合演習(包括的地球科学コース)他