九州大学大学院 地球社会統合科学府 Graduate School of Integrated Sciences for Global Society

卒業生の方

新任教員紹介

ことばの意味を捉える

内田 諭

言語・メディア・コミュニケーションコース 言語文化研究院

写真:はじめて自分の名前が「載った」辞書

中学校で英語を教科として学び始めてから、机の上には常に英語の辞書がありました。わからない単語があれば辞書を引いて意味を調べる、というのが普通の使い方だと思いますが、「辞書を読む」あるいは「読み比べる」という行為もなかなか楽しいものです。英語の単語は本当に日本語の単語と対応しているのか、なぜ一つの単語にたくさんの訳(語義)があるのか、辞書によって訳語が異なるのはなぜか、英英辞書の定義は見出し語の意味を適切に伝えているのか、などを考え出すと夜も眠れなくなります(授業中に辞書を「枕」にする人もいますが言語道断です)。

「ことば」の意味に関心があったので、大学・大学院と英語学(言語学)を学び、その研究を続けたいと思って大学教員の道を選びました。2014年度から言語文化研究院に在籍し、2017年度の後期から、地球社会統合科学府の授業も担当させて頂いています。
私の専門は、一言で言うと英語の言語学(英語学)ということになりますが、その中でも特に認知意味論(さらにその中でもフレーム意味論)と呼ばれる分野に関心を持っています。この分野ではことばは「人間の世界の認知の仕方」(人間の持っている概念や世界観)を反映していると仮定します。逆に言うと、ことばを観察することで人間の概念構造を明らかにすることができる、ということになります。「世界の区切り方」は言語に相対的で、つまり、英語と日本語では世界の切り取り方が異なります。ですので、英語の辞書の訳語に複数の日本語が挙げられていることは全くもって自然なことで、一対一に対応しているほうが珍しいと言えます。良い例かわかりませんが、釣りが好きですので(九大に勤務してすぐに福岡らしい(?)ことをしようと思い、船舶免許を取りました)、魚の話で一つ具体例を示します。日本人は(特に釣り人は)「ヒラメ」と「カレイ」を日常レベルで区別します。一方、英語では日常語ではflatfish (flounder)という単語があるだけで、ヒラメとカレイの違いはあまり意識されません(フランス料理では舌平目(sole)はちょっと特殊なステータスがあるようです)。ものや出来事の「ラベル」の付け方の違いは、世界の捉え方や文化の違いを表していると言えそうです。「ヒラメ」と「カレイ」の例では海産物をよく食す日本の文化とも関連しているかもしれません。ヒラメはお刺身に、カレイは煮付けにするのが最適です(カレイは砂浜で釣れますが、ヒラメはなかなか釣れません)。このようにことばの裏には「訳語」以上の意味や文化があり、それを正確に、またわかりやすく捉えるのが言語学の一つの醍醐味ではないかと思います。
ことばそのものの研究に加えて、その研究の成果を言語教育などに活かす「応用言語学」も私の関心の一つです。辞書や教科書などが主な応用先ですが、机の上の(あるいはコンピューター上の)ことばの研究だけに留まらず、研究成果を世間に広く還元していければと思っています。

最近は異分野融合研究にも関心を持って取り組んでいます。人間の活動の多くは言語によって支えられていますので、言語学の応用の可能性は高く、他の分野との融合を考えるといろいろと新しいことができるのではないかと思っています。学際的な研究は地球社会統合科学府の風土とぴったり合いますので(4月から兼任させて頂いている共創学部も然りです)、先生方・学生たちと一緒に研究できることが非常に楽しみです。一方、異分野融合研究の難しさも実感しているところです。分野間の常識や文化の違い、前提の違い、手法の違い、ゴールの設定の難しさなど、チャレンジはたくさんあります。異分野融合研究は学問の「掛け算」だと感じていますが、両方の分野の知識が1人前でないと(つまり1以下だと)、中途半端な研究になってしまうかもしれませんので、積極的に言語学と掛け合わせる学問の知識や手法を吸収していきたいと考えています。勉強不足故、苦労も多くなりそうですが、その先には新しい地平が広がっていると信じています。


プロフィール
担当科目:言語コミュニケーション学E(認知意味論)