九州大学大学院 地球社会統合科学府 Graduate School of Integrated Sciences for Global Society

卒業生の方

新任教員紹介

植生から自然と社会の関係を探る

藤岡 悠一郎

包括的生物環境科学コース 比較社会文化研究院

写真:ドローンで撮影したナミビア北部の空中写真

比較社会文化研究院の基層構造講座に着任いたしました、藤岡悠一郎と申します。専門は地理学で、人間社会と自然環境との相互作用に興味を持ち、特に人が関わって形成される植生や人間による植物利用に関する研究を進めています。また、国際協力機構(JICA)のプロジェクトで、アフリカの農村開発に携わってきました。

これまでに研究を実施してきた主な地域は、南部アフリカの乾燥地域やシベリアの寒冷地域、日本の中山間地域です。なかでも、アフリカ大陸南西部に位置するナミビア共和国で、修士課程に所属していた2002年から、村に住み込んで行う参与観察型の調査を実施してきました。アフリカの乾燥地域では、ウシやヤギなどを飼養する牧畜やトウジンビエなどの穀物を栽培する農耕が多くの地域で営まれていますが、一部の地域では、これらの生業に樹木の利用を組み込むアグロフォレストリーとよばれる複合的な生業が行われています。このような複合生業は、養分の効率的な循環を生み出し、土地生産性を向上させる効果があると考えられています。また、農地のなかに形成される林(農地林)は、生き物の棲息地となり、農地内の生物多様性を維持することが知られています。人口が増加する途上国では、このような生業が環境調和型の農業発展の鍵になるとして注目されていますが、他方で、社会経済状況の変化のなかで、農業の機械化や市場経済への流通を目的とする農業が浸透するなど、農家の農業経営や資源の利用方法が大きく移り変わっています。私の研究では、このような景観や生業がどのような要因で維持され、いかなる機能を有しているのかを明らかにするため、撮影時期の異なる空中写真や衛星画像を用いた景観解析、農家へのインタビュー、毎木調査や土壌解析などの調査を実施しています。

写真:滋賀県のトチノキ巨木林

日本では、滋賀県や山形県に位置する山村を対象に、村落近くの山林に形成されるトチノキ(栃の木)巨木林の分布や成立要因に関する研究を行ってきました。トチノキは、日本の渓畔林に広く自生する落葉広葉樹で、秋口に直径4cmほどの黒光りする大きな実をつけます。その果実は、山村に暮らす人々の澱粉源として利用されてきました。トチノキは樹齢が長く、直径1mを超える巨木に成長します。日本の山村では、人々が果実を採集するためにトチノキを選択的に保護することで、巨木が密に生育する巨木林が形成されている地域があります。しかし、近年では山村の過疎高齢化の進行や産業構造の変化のなかで、トチノミの利用頻度が減少し、他方でトチノキの材が高価格で売れるようになり、巨木の伐採が進んでいます。トチノキの巨木は、谷の急な斜面を根で支えるため、雪崩や洪水災害を軽減し、水源を涵養する機能を有すると考えられており、日本の森林政策のなかでこのような植生を維持していく必要があると考えています。私は、トチノキ巨木林の形成要因や生態学的機能、全国的な分布を明らかにすることを目的に研究を進めています。 今後は、植生や生業の視点を軸に、専門以外の研究領域の研究者とともに新しい研究や教育に挑戦していきたいと考えています。特に、考古学の研究手法による検討を加えることや植物のDNA解析などを併せることにより、多角的な視点から、植生を通じた自然と社会の長期的な関係史を明らかにしていきたいと思っています。


プロフィール
担当科目:地球社会環境科学A(人間環境相互作用論)、総合演習(包括的生物環境科学コース)他